②トラックではねて

 やっちまった……


 お婆をねちまった。

 あんた信号〝赤〟だったろぉ、なんでヨタヨタ飛び出してくんだよぉぉ。


 このトラックをデコるのにこないだ幾ら払ったと思ってんだよ10年ローンだぞおぃそりゃ俺まだ独身だからいいけど周りみんなヨメさんと子供がいてこの不景気の中トラック運転手なんてどんだけ大変か知ってんのか俺自営だしあぁ今から警察来て現場検証して切符切られて納品遅れて信用丸つぶれ……


 ……いやいや何より、トラックを降りてひとまず介抱だっ


 目の前にでっかい水たまりが。こんなのあったっけか。

 跳ねちまったはずのお婆がどこにもいねぇっ まさかこの水たまりに落ちたとか。そんなわけね──



 デレレレレレレレレレンッ


 ───へっ?


 水たまりから変なメロディと共に、うっすい生地の露出度の高ぇドレスを着た外人の女がニョキニョキと出てきた。すっげぇ光ってる。


 両腕になんか抱えてるぞ。


「あなたが撥ねたのはこの金のお婆ですか、それともこの銀のお婆ですか」


 き、金のお婆と銀のお婆 !!!???

 い、意味がぜんぜんわからねぇっ

 何をどう応えりゃいいんだ。


「ドチラデスカ」


 め、目力と圧がすげぇ、めちゃくちゃ怖ぇよっ


「ど、どっちでもないです。ふ、普通のお婆ですっ」


 怖ぇ外人の姉ちゃん、ニッコリとほほ笑む。


「正直者ですね。ではあなたには、この金のお婆と銀のお婆オブジェ(等身大)を差し上げます。それと特典期間中につき『異世界の旅』へもご招待しましょう」


 へぇっ!?


 デレレレレレレレレレンッ





→┏━━∠円┓

→┗○━━○┛ブゥーン





 それからオレは、元の世界へ帰れてねえ。


 異世界とかいうところにやってきて、たまたまゴブリンとかいう気持ち悪ぃ小鬼の集団を撥ね飛ばして退治したら、周りのやつらに勇者とか言われるようになって、あちこちでバケモノ退治を頼まれる様になった。


 西にドラゴンあれば撥ね

 東に魔王あれば轢き


 なんだかわかんねぇ人生になっちまったが、それなりに楽しんでる。納期もローンもガソリンも気にしねぇ、バケモノを撥ね飛ばす毎日も爽快ってもんだ。



 この助手席に鎮座してる金銀のお婆オブジェだけ、何とかしてぇんだが。



<おわり>

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