異世界トラック三部作~はねさせ、はねて、はねられない

矢武三

①トラックにはねさせて

「ヤマモト君、準備はいいかね」


「準備も何も。博士、本当に大丈夫なんですか」


「私の研究に間違いは無い。君も見ただろう、あのクラッシュテストダミー(車の衝突実験用マネキン)を放り込んだ瞬間を。見事に消えたじゃないか。あれはキミの体重と身長を再現したもの。それに衝突弾性、気温、湿度、キミと対象の速度、侵入角度。あらゆるものを測定、演算した結果、キミは───


〝本日午後16時台、気温26度、

環九長池町交差点北2km先コンビニ前歩道縁石より、

60km/hで加速中のトラック前面に対し、速度9km/h、侵入角30度〟


───でぶち当たれば、必ず異世界へ跳べる」





→┏━━∠円┓

→┗○━━○┛ブゥーン





「あの〜、何で異世界に行くんですか」


「キミはいつも休憩時間に熱心に読んでいるじゃないか。『異世界でオレまた無双しちゃいました?』という本を」


「いや、あれは単に趣味ですから」


「キミは現状に不満があるのだろう。私の様な科学者の助手で居ることが。だからああいった現実逃避の本を読む」


「給与ぐらいですかね。残業も無いし、待遇いい方だと思ってますけど」


「いや、キミは現状はおろか、社会国家政治、隣人との人間関係から明日の天気まで不平不満を募らせているはずだ」


「そんなにひどい厭世観に満ちてるように見えます? 僕が」


「とにかくその鬱積を大いにトラックにぶつけ、大いに異世界へ跳び、新たなる人生を満喫して欲しい」


「何か僕、悪い事しましたかね」


「さあ! 間もなく16時台に入るぞ。あらためて体勢の準備と、心の準備は良いかね」


「聞いてないですよね、僕の話」





→┏━━∠円┓

→┗○━━○┛ブゥーン





「あの、このヘルメットとプロテクターで、本当に大丈夫ですか」


「心配はない。採石場のダイナマイトを取り扱う発破技師の愛用品だ。トラック程度の衝撃はものともせんだろう」


「妙にペラッペラなんだけどな。本当に、失敗したらボーナス出してくれるんでしょうね」


「もちろんだ。契約同意書に私もサインしただろう。キミはこれからお金では買えない世界へ行くんだぞ。現世のお金などに執着してどうする」


「いや、失敗を祈りますけどね普通。あの金額なら」



「……お、来た来た! 侵入角の計りやすい、いい前面形状のトラックじゃないか。さあヤマモト君、異世界への扉がやってきたぞ。心おきなく飛び込んでくれたまえ!」


「最後に聞いていいですかぁっ」


「何だね」


「何で行先が、異世界ってわかるんですかぁっ」


「勘だっ」





→┏━━∠円┓

→┗○━━○┛ ドンッ //// 二■〇二





「……死んだのか」


「はい、間違いございません」


「よくやってくれた。あの者がこちらへ来ていれば、間違いなく我が命をおびやかしていたであろう」


「次回、予言の勇者が現れました時も、どうかお任せくださいませ」



<おわり>




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