病喰ゆめ『小説枠』まとめ
病喰ゆめ
ゆめの世界で(テーマ『夢』)
仕事に勉強、ご飯にお風呂。世界はいつでも慌ただしくて、けれどこの小さなお部屋では、ゆっくりと時間が流れた。
「今日も頑張ったね。お疲れ様」
鏡の中のボクは、少し口を開けて、此方を見つめる。
見つめ返すと、そっと眠たい瞳をした人がゆらゆらと酔拳を披露していた。
外では雨雲が近づいてきてるって、誰かが言ってたっけ。誰だっけ。水色の上着の……えっと、忘れちゃった。
ぴょんぴょん跳ねて、楽しくて、みんなに会えるのが嬉しくて。ボクはまた、にこにこしてしまう。誰か来ないかな。お話ししたいな。時間はゆっくり、じっとり過ぎる。
まってもまっても、なかなか来なくて、瞼が重くなってきたから、そのまま少し、目を閉じた。
11111111111111111111111111111111111111111
頬を撫でる冷たい風と、喉を湿らす潮のにおい。耳をすませば、波の音だって聴こえてくる。緑のお布団はふわふわで、人も動物も、きっとおばけや天使だって眠っちゃう。
「ホーホー。ホー―」
頭の上から突然呼ばれて、はっと目を開ける。もこもこの羽毛に愛らしい耳。
「こんばんは、ミミズクさん、いらっしゃいだよ」
眠たい声で呼び返すと、消え入りそうな羽を綺麗に動かして、直ぐ近くに飛んできてくれた。それからまた「ホーホー」って、楽しそうに声を出す。
「今日は何してた?ちゃんと毎日寝てる?」
ミミズクさんは、小さく頷いてみせるけれど、ボクは疑り深いから「本当かなー?」なんて言っては、くちばしをつんつんする。やっぱり、ここではゆっくり時間が過ぎる。それが嬉しくて、少し身体が温かくなった。
しばらくすると、今度はお腹が空いてきた。ミミズクさんも、小首をかしげては、「ホォゥ」なんて少し切ない声をくれる。
「んー、仕方ない。何か探してみよっか」
お腹が空いて動けなくなる前に、お部屋の中を探検してみることにした。ここのお部屋はとても広くて、色んな所に繋がってるから。きっと何かあると思うんだ。例えば、パンにおむすび、おもちにエリンギ。うん、なんでもあると思う。ただ、動くと時間は早く過ぎるから、そこはあんまり好きじゃないんだけど。
ふわりと浮くように歩いて、紫色の木々の隙間を縫っていく。進むたびに甘い気配がしたり、虫の鳴く声が聴こえたり、とても楽しくなってくる。
しばらく行くと、小さな湖にたどり着いた。水に触れると、さっきまでの潮のにおいが嘘だったみたいに溶けてしまう。水面に自分が映らないのを、不思議そうに眺めていると、またミミズクさんが「ホー」と鳴く。ミミズクさんが羽指すほうを見ると、そこには大きなヒョウがいた。
「グルルルル」
「…………」
「グルルル」
「怒ってる?」
首を傾げて尋ねるけれど、返事はなくて。代わりにミミズクさんがふるふる震えて、ボクの後ろに隠れてしまった。
お腹が空いているのかな……なんて思ったけれど、ヒョウが食べれるようなもの、もってない。
「きみ、どこからきたの? お名前は?」
もう一度コミュニケーションを試みようとして、異変に気が付いた。さっきまでノソノソ歩いていたヒョウが、いつの間にか大きな大きな段ボールの中にいる。
段ボールには『レオン。ライオンじゃない。憑れてけ』と書いてあって、まるで大きな捨て猫だ。名前を呼んだら、憑いてきてしまうのだろうか。……いったん、その場を離れることにした。いったんね。
レオンに背を向けて歩いていくと、今度は小さな街に出た。甘い甘い香りが拡がっていて、とても美味しそうな街。
「ホーホー」
ミミズクさんも何だか嬉しそうだ。ここなら食べ物ありそうだもんね。
「あの……!」
「へ……?」
また突然声をかけられたものだから、間抜けな音を出して、きょとんとしてしまう。声の主を探して振り返ると、ひょこっと可愛らしい耳が生えた女の子が立っていた。兎の耳……?
「この街を、救ってくれませんか?」
「へ……??」
再度、同じ音を出したし、同じようにきょとんとした。こんなに甘くて優しそうな街のどこを救えと言うのだろうか。だって、お家も全部お菓子だし、コーヒーの川だって流れているのに。とてもとても甘々なのに。
「私、和心らびといいます。あの……この街を……」
「たべる?」
「え? 違います!! 救ってほしいんです!!」
「ホー」
ボクの代わりに、ミミズクさんが返事をした。なんで。仕方が無いから、そこらに落ちてるクッキーをかじりながら、話だけでも聞くことにした。
らびちゃんの話によると、この街の近くに小さな砂漠があって、数日前そこにロケットが飛んできたらしい。そのロケットには、凶悪な菌類が乗っていて、地球を侵略しようとしていた。で、止めようとして街のみんなが戦って、みんなやられて捕まっている。ということみたい。だから、ボクに助け出してほしいって。まってやだ、そんな凶悪なのと戦いたくない。
「お願いします」
そんなうるうるされても……。
「ホー」
あ、また勝手に返事をされてしまった。そもそも、らびちゃんはどうして無事だったのか……。気になって朝しか眠れない。
「砂漠……どっち……」
そっと震えながら指をさしてくれたので、兎に角そっちに向かってみることにした。うさ耳だけに。うるさいわ。
てくてくふわり、進んでいくと、本当にすぐに砂漠が見えてきた。同時に、謎の掛け声も聞こえてくる。「パワァパワァ」ってなんだか野太い声。
「こ、この声です……あいつらです……」
らびちゃんが怯える。ミミズクは胸を張る。ボクはクッキーをかじる。
「パワッ!!」
あ! 野生の菌類が飛び出してきた。突然の出来事に、さすがにびっくりしながらも、さっと身構える。まず、相手の観察だ。おい、まて、貴様エリンギか?
「ひぃぃ……」
らびちゃんが怖がってしゃがみ込むと、さっきまで彼女の頭があった場所を巨大なサボテンが通過する。危ねぇ。このムキムキのエリンギ、攻撃してきた。
さては、らびちゃんは運の良さで無事だったパターンか?
「ギィィイイイ」
ミミズクさんは何故か臨戦態勢で、威嚇の声を発する。よし、まかせた。ボクは、クッキーをかじる。
「ギィイイイ」 「パワァ」 「ひぃぃ」 「ボリボリ」
これが、この戦闘における全ての音だった。周りは静寂に包まれて、微かに風が吹いている。たまに目に入ってくる砂が痛い。
しばらく戦いを観察していると、あることに気が付いた。ミミズクさんは徐々にダメージを受けているのに、ムッキエリンギは何ともない。やはり、不利か。
仕方が無いので、ふわり。そっとキノコの背後にまわる。
「ガブっ」
ちょっと噛みついてみた。意外とたべれる。生のエリンギだ。ムッキなだけだ。火を通したらもっと美味しそう。
「パワ……」
ムッキエリンギは、噛まれると少し涙を流し、それからこちらを凝視して、去って行ってしまった。何だか、美味しかった。
「すごいです!!あいつらの巣はこの先です!!」
「ホ……」
そっか、まだ続くんだ。そう思うと、自分のことより、頑張って戦っているミミズクさんが不憫に思えた。早く帰りたくなってきて、少し急いで『巣』に向かう。アレ、いっぱいいるのかな。
しばらく頑張って進むと、やっとそれらしき場所についた。そこではなんと、栽培が行われていた。ムッキエリンギのムッキエリンギによる、狂気じみた栽培。まさに自給自足。え? 何が??
「パ―――ワァァァァ」
わぁお。すっごいでかいやつがいる。誰が見てもボス。しかも、そいつの後ろが多分……あの街の人が捕まってる部屋。だって『にんげんとか』って書いてあるから。扉に。
「パパパパパパパ!!!!」
すっごい勢いで、スクワットしてる。膝とかほぼないのに。どうやってやってるのかな。
いつの間にか、ミミズクさんがボスの目の前に飛んで行って……。
「ギィィイイイ」
「無茶だよ! ミミズクさん!!」
きりもみしながら滑空しての突撃。ぎゅぃぃぃぃいいい!!!! めり込むくちばし、そしてそのまま脚を突き刺して……。しかし、不動。
ミミズクさんの勇気むなしく、ムッキムッキマッチョエリンギはノーダメージ。それどころか、近くにいたムッキをむんずと掴んで振りかぶる。
「危ない!!」
飛んでくるムッキが到達する前に、何故か、何故なのか、らびちゃんはブーツの紐を結びなおし始めていた。セーフだ。多分、無敵かもしれなかった。
ミミズクさんも何とか無事なようで、ほろほろと体制を立て直す。
「パァウワアア」
あ、こわい。どうしよう。どうしたら、このエリンギ止めれる? 考えても何も浮かばない。期待されても困る。大体どうしてエリンギが筋肉隆々なの? でも、どうにかしなきゃ、逃げるのすらも、難しそう。考えて、なにか方法を……。
「んぎぃぃぃぃぃぃいいい!!!!」
突然の咆哮、痺れる空気と揺れる視界。そして、現れたレオンinダンボール。そのダンボールには『やるやん』の文字が記されていた。
突然の静寂、交わるキノコと牙の視線。そして、レオンは待っていた。相手が、一歩を踏み出す瞬間を。
「グルルルルンギィイイイ」
「パパパパパパワァァアア」
威嚇と威嚇のぶつかり合い。レオンは待つ。ただ、待つ。その様は、達人。一刀の間合いを保ち、しんと相手を睨みつける。
対するマッスルボデイラインは、ググっと身を縮ませて、腹筋をフッキンフッキンだ。
ボクは、何となくクッキーをかじった。それを合図にしたかのように、ボスが仕掛ける。
「パァァワアアア」
ギュンと飛び出すようなタックル。風を切る音が耳に届く時、レオンは既に、宙を蹴っていた。
「んぎぃぃぃぃぃぃいいい!!!!」
ぶつかり合う刹那、激闘の結果とかなんかどうでもよくなって、今のうちに人質を助けることにした。
あの街の人ってどんな人たちなのかな、みんなうさ耳なのかな。『にんげんとか』って書かれている扉に駆け寄る。いつの間にか、らびちゃんが隣に来ていて、鍵をもっていた。なんで。たぶん、どっかに落ちてたのを拾ったのかな。
「みなさん! 助けに来ました!!」
うん、あとはらびちゃんに任せよっと。もうなんか、疲れた。クッキーがおいしい。ミミズクさんどこ行ったのかな。振り返るとそこでレオンと共闘してたりするのかな……。クッキーももうなくなっちゃったし、帰ろう。
「帰るねー!!!!」
大きな声で宣言して、帰る。そう、とても帰る。街まで戻って、クッキー拾って。それをかじる。だって、ここにいると頭おかしくなりそう。あたおか。
「つかれたけど、楽しかったな……」
ゆっくり、全部終わった感じを出しながら歩いていると、ミミズクさんとレオンが追いついてきた。しっかりダンボールに入っている。表情からして、勝ってきたのだろう。らびちゃんはちゃんと帰ったかな。
何が起こっても楽しくて、何が起こっても笑いたくて。きっとそんなの無理だけど、だけどそうしたいから、ここにいる。
楽しい時間はしあわせで、夢の中だってそんなの同じで。だけどボクの身体は半透明に消えていってるし、記憶だって時間だって曖昧に溶けていく。
ほら、また誰かが呼んでる。寂しいって呼んでる。だからまたゆめを見よう。悲しいことなんて、悪い夢なんて、大きな鋏で断ち切ろう。そして全部、たべちゃうんだ。
11111111111111111111111111111111111111111
眠い目をこすって、画面から視線を外す。私は、今日も何かに繋がって生きている。ひとりでいるのはこわくてつらくて、なのに直接話すとちくちく痛くて。だから、画面の中……優しい誰かの足元に転がる。
その誰かは、私のことを何も知らないし、何かをしてくれるわけじゃない。けれど、少し。ほんの少し、苦しい気持ちをたべてくれるかもしれない。
【みんなのアイデア(リクエスト)】
ナノ・テトラノナさん(ですくさん)
「ミミズクを登場させる」
悪路王さん(あくろ殿)
「レオンさん(動物)を登場させる」→「主人公のペット」「んぎぃぃぃいい!!と鳴くことがある」
和心らびさん(らびちゃん)
「和心らびさんを登場させる」
伊達衿んぎさん(んぎさん)
「ムキムキマッチョなエリンギを登場させる」→「パワァって鳴く」「栽培できる」「地球侵略を企んでいる」
病喰ゆめ『小説枠』まとめ 病喰ゆめ @ya3iya3iyu3e
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます