第40話 小さな家で(終)
王都のはずれに、二階建ての小さな家がある。
真新しい清潔な家屋に、ほどほどに広い庭。
そこに住んでいるのは、ややぽっちゃりした女性と、番犬が一匹、番鳥が一羽。
その家には、よく人が来る。
お茶を飲みながらおしゃべりしていくツインテールの愛らしい女の子に、美味しい手土産を渡してすぐに帰っていく金髪の美形騎士。
そして。
庭仕事をしていた女性――可憐は、恋人の姿に気づくと笑みを浮かべた。
「邪魔をしてしまいましたか、カレン」
「いいえ、今終わろうと思っていたところです。後片付けしますので、ジークは中で待っててください」
「手伝います」
片づけをさっと手伝ってくれる。
ずっと変わらない優しさに、可憐の胸が温かくなった。
二人で家に入ってお茶を飲み、ジークの手土産のクッキーをつまむ。
お茶は緑茶で、最初は不思議そうな顔で飲んでいたジークも、今では紅茶より好きになったのだという。
もともと紅茶と発酵度合いが違うだけというのもあり、可憐が広めた緑茶は王都でも少しずつ人気が出てきた。
「クッキー、ありがとうございます。美味しいです」
「カレンが淹れてくれるお茶もとても美味しいです。調味料づくりは順調ですか?」
「職人さんの手を借りて、ようやく稲から種麹を作ったところです。まだまだこれからですが、一歩前進です」
「先が楽しみですね」
そこで会話が途切れる。
だが、その時間は心地いいものだった。
二人でお茶を飲み、クッキーを食べる。なんでもないことが、ただ幸せだった。
このようにお友達より少し仲良しといった様子の二人だが、来年の春になれば式を挙げて二人で暮らすことになっている。
「カレンの白いドレス姿、楽しみです」
「私もです。でも、王都の食事が美味しすぎて結構リバウンドしてしまったので、自炊多めに切り替えてダイエットします」
「カレンがそうしたいのなら止めはしませんが、このままでもカレンはとても魅力的ですよ。以前も言ったとおり、どんな体型のあなたも好きです」
「ふふ、ありがとう」
とはいえ、一生に一度の結婚式、やはり一番きれいと思われる状態で臨みたい。
(ダイエットといえばやはり……聖力ダイエット! 癒しの力が一番消耗が大きいから、騎士団に顔を出して騎士たちの怪我を癒して回ろうっと)
聖力の無駄遣いダイエットを決意した可憐は、ダイエットは明日からと自分に言い聞かせながら最後の一枚のクッキーを手に取った。
召喚されたぽっちゃり聖女は、異世界をたくましく生きる 星名こころ @kokorohoshina
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