第4話 最後のイタズラ
やがて男は目を覚ました。近くに二人の姿はない。倒れる直前のことを思い出すと、やられた!! だなんて歯ぎしりをした。
しかしすぐに気付く。すぐそばに自身のUSBが落ちていることに。何故、と思ったが、持っていた端末に差し込んでみた。すると表示されるデータの数々。題名は変わっていない。が、データの内蔵量が違う。差し替えられたにしても、わざわざこんな手の込んだことをして一体どんなデータなのか、男は疑問に思った。
念のため、ウイルス感染の類のものではないか検査を完了させてその安全性を確かめてから、データの一つを開いてみた。それと同時、外から次々と車が停車をする音が聞こえる。恐らく鳴海の所属するスパイ組織の息がかかった警察がやって来たのだろう、という思考の傍ら、そのデータが開くのを待つと。
大音量で流れる喘ぎ声。
それと同時に突入する警察。
しばし男も警察も沈黙。そして男は顔を赤くし、一気に大量の冷や汗を流し。
「……違う!! 俺じゃない!!」
「あっ……はいはい、話は署で聞くから……」
「違う!! 誤解だ!! 俺はわざわざこんなのを見るためにここにいるんじゃ……」
そこで男の端末に何かが表示される。あらかじめこのメッセージが出てくることがプログラミングされていたらしい。そこに映っていたのは……。
『いかがですか? 教授。俺の特選アダルトビデオは。 麻生』
二人は万が一本当にUSBが取られてもいいよう、データの中身をすり替えていた。そしてこのUSBに用は無くなったため、こうして男の自尊心を傷つけるため、あえて残していった。男から辱めを受けた、鳴海からの仕返しである。
見事その思惑にハマってしまった男は額に青筋を浮かべる。二人の笑い声が聞こえるようだった。そして。
「……あんのクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男の断末魔が響き渡る。そして男は無事、警察に連行された。
「そういえば、これ」
「え?」
そして無事に警察に保護された二人は、空き部屋で事情聴取を待っていた。という名目の元、恐らく麻生が固く今日のことを口止めされるだけなのだが。
「この中、あの教授の課題データが入っているよ」
「え!? マジですか!? ……って、何で俺の狙いが課題データだったって……」
「少し考えればわかるよ。本当は駄目だけど、今日はいっぱい迷惑かけちゃったからね。お詫び。あと、あの男の授業は無事単位が取れるよう、根回ししておいてあげる」
「あ、アリガトウゴザイマス」
思わず麻生は片言で礼を言う。結局色々バレていた。自分の単位がヤバいことも、それをズルしてどうにかしようとしていたことも。
「まああの男いなくなるし、あんまり意味ないかもだけど、しっかり勉強するように」
「……ハイ」
そこで鳴海のことを呼ぶ声が、部屋の外からした。そこで麻生は何となく悟る。鳴海には、もう二度と会えないと。鳴海は腰を上げる。見上げるその横顔は、誰よりも綺麗で。
「……先輩!!」
麻生の声に、扉の前に立った鳴海は振り返る。そして軽く手を振った。
「さようなら、麻生くん。楽しかったよ」
そして部屋を出る。麻生は無情にも閉じられた扉を見つめながら、遅れて呟く。
「……俺も、貴方といれて楽しかったです。鳴海先輩」
さよなら、と、麻生は彼女に別れを告げた。
今日のことは誰にも言わないこと、と再三念を押され、もし言ったら、と若干脅され、ようやく帰った午前2時。彼はパソコンを開いていた。それは鳴海に貰ったデータを確認するため。
中に入っていた文書データに、麻生はほくそ笑む。これ、たぶん来年も助かりそうだぞ、なんて思ったのも束の間……一つだけ、他の物とは気色の違うデータがあった。
題名は「Secret」。秘密? と思いつつ、麻生がデータを開くと……。
パンッ!! と破裂音が響き、麻生は驚きのあまり椅子からひっくり返った。
何だ何だ、と思いながら麻生は椅子に戻る。隣室からのうるさいぞ!! という声に謝りながら、麻生は画面を凝視する。するとそこには、「驚いた?」と文字が。どうやらあの男にいたのと同じ施しを受けたらしい。やられた、と思ったのも束の間。
「ありがとう」
次にそんなメッセージが表示される。それをしばらく眺め、麻生は驚いたように目を見開いていた。しかしすぐに、泣きそうに笑って。
「……そういうのは直接言ってくださいよ……鳴海先輩」
恥ずかしかったのかな、なんて考える。麻生の頭の中には、鳴海の笑い声が響くようだった。あの皆の笑顔を引き出す、可憐で無垢な笑い声が。
【終】
#課題が嫌なので教授からUSBを奪ってみた 秋野凛花 @rin_kariN2
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