第12話「雪魅」
―緊張をかき消すように、少年は言った。
少年:「そういえば、僕たち、自己紹介をしていなかったね。」
「僕の名前は、”雪魅”(セイミ)だ。生まれつき髪や肌が白いから、こういう名前を付けられたらしい。事情があって、名字は知らない。」
沙美「私の名前は、”沙美”(シャミ)です。私も、自分の名字は伝えられていません。ただ、名字を使う機会が少ないから、そこまで不便ではないんですけどね。」
雪魅「素敵な名前だね。」
―名前が似ていて、少しうれしかった。
そして、雪魅は、本題に入った。
雪魅:「じゃあ早速、本題に入ろうか。沙美も、気になって仕方がないでしょ。」
「単刀直入に言うとね・・・」
「”僕たちは、””ツリー・バトラー””と言って、その名の通り、”ツリー”と戦っている”。」
沙美:「ということは、あの怪物は・・・」
雪魅:「ああ。木だ。」
「ただの木ではない。”狂暴化した木”だ。簡単に言うと、一部の”ツリー”と呼ばれる種類木は、人を吸収し、狂暴化する。」
「もちろん、全ての木が狂暴化するわけではなく、狂暴化しない木は、”穆”(ボク)と呼ばれている。」
―私は、この話を聞いて、ピンときた。あの時の怪物は、もともとは木で、それが父を吸収することによって、狂暴化したということだ。そうなれば、父の最後の言葉とも辻褄が合う。父は、最後にこう言っていた。
「何があっても、絶対に、俺の死体を木のそばに置くな・・・。樹液が出ている木なら、なおさらだ・・・。」
―だが、父が言っていた「樹液が出ている木なら、なおさらだ・・・。」というのは、どういう意味なのだろうか。
そして、それに答えるかのように、雪魅が言った。
雪魅:「どうやって人間を吸収するかわかる?」
「”ツリー”はまず、体液を出すんだ。一般的には、”樹液”と呼ばれている。そして、何らかの理由で、そこに人間の血液が触れたとき、その血を即座に吸収し、その血液に含まれているエネルギーを使い、触手を生やし、それをその人間に突き刺し、更に血液を吸収する。次に、更にその血液のエネルギーを使い、自らの形を変形させ、人間を取り囲むような膜を作り、その中で、更に血液を吸収していく。そうしてツリーは、”その人間が一生かけてためていったエネルギー”を全て使えるようになるんだ。」
―全てが繋がった。昨日、あの怪物が生まれたのは、私があの場所に父を捨てたからだ。父は、自分がツリーに吸収され、ツリーが狂暴化するのを防ぐために、”あの言葉”を残したんだ。父はあの時、急所をやられたため、その理由までは話せなかったのだろう。
―そして私は、自分がしたことを知り、目に涙を浮かべながら雪魅に謝った。
沙美:「ごめんなさい。雪魅さん。」
「私が・・・父を”樹液が出ている木”のそばに置いてきてしまいました。」
雪魅:「まあ、ツリーが人間によって狂暴化する原因は、ほとんどが死体遺棄によるものだ。珍しいことでもないよ。」
―そういって、少しの沈黙が流れた後、雪魅は思い出したように、こういった。
雪魅:「あっ、そうそう、言うのを忘れていたけど、ツリーが狂暴化するのは、人間の血液を吸収したときだけではないんだ。」
沙美「えっ・・・」
雪魅:「ツリーは、動物の血でも、狂暴化するんだよ。そして、ツリーの主食は人間だから、動物によって狂暴化したとしても人間を求めて暴れ続けるんだ。だから、ツリーはなるべく早く始末しておかなければならない。」
「ほおっておけば、次々に人間を吸収していき、どんどん使えるエネルギーは増えていってしまう。時には、大幅に質量が増え、もっと巨大化することもあるらしいよ。」
雪魅:「だから、”ツリー・バトラー”である僕たちは、なるべく早くツリーを倒し、犠牲者を減らさなければならない。それが、僕たちの”使命”なんだよ。」
木殺開界 第一部 水町 啾魅 @Syamy-mizumachi
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