ダイヤモンド

ナナシリア

ダイヤモンド

 やりたいことがあった。


 小説の道に進みたいと、そう思っていた。


 小説が好きだから、仕事にしたいと思うのはひどく論理的で、やりたいという衝動に従うのも論理的だった。


 もちろん大人とか周りの人とか、いろいろ言われることはあった。


 バカみたいだ、無意味だ、そんなふうに言われたことも、冷笑されたこともあったが、僕は僕であって他の誰でもない。そう思って走ってきた。


 他の人が僕の人生に口を出してくるのに従うのはあまりに非合理的だった。


 だが、決定的だった。


「少しは息抜きをしよう」


 教室の中心で夢を語って否定されて言い争った僕を、教室の隅から見ていた彼女は僕にそう言った。


「わかったようなふりをするな」


 僕は先ほどの言い争いもあって、殺気立っていた。


 息抜きをしよう、なんていうのは、僕には到底届かないような『低み』にいるからこそ言える言葉だ、そう思った。


「私も君も、人間だから、少なくとも君が人間的に無理をしているということはわかるね」


 それはゆるぎない絶対的な事実だったから、僕がここで感情的になって非論理的な反論をすることは出来なかった。


 僕は、僕の考え方に合わせてきてくれた彼女に従うことにした。


 僕は、僕の考えに合わせてくれるか、僕の考えを認めてくれる人としか関わりあいたくない。それは絶対的な条件で、満たす人としか関わらない。


 彼女は僕の考え方を『論理的』だと表現した。実際僕はそのように心がけて行動していたから、その通りに評価されて正しいと思った。


 それから、僕は一人で夢を目指していたのが二人で夢を目指している状態となった。


「この作品はさ――」


 それからの彼女はときには僕に味方し、ときには的確なアドバイスを与えてくれた。総じて、すべての行動が『論理的』で、僕は彼女の後をついて回っていた。


 当然、僕と彼女を露骨にバカにする者も冷笑する者も、減るどころか増える一方だったが、僕と彼女のダイヤモンドのような心を傷つけるには足りなかった。


 だが、ダイヤモンドは硬度こそ高いものの強い衝撃に対しては弱く、砕けやすい好物だった。


「それは非論理的だ」

「確かにそうかもしれないけど、だからと言って君の表現を捨てるべきじゃない」

「僕は小説で生きていきたいんだ。好みなんかで寄り道している場合じゃない」


 これから執筆する作品の活動方針で、彼女と揉めた。


 彼女は僕が書きたいジャンルを書くべきだと言ったが、僕は伸びそうなジャンルを書くべきだと主張した。


 もはや社会に出るまで猶予が長くあるわけではなく、早急に活動の見込みを立てたかった。そのためには、人気のジャンルを書くしかない。


 書きたいものを書いて幸福を味わうなんて愚かなこと、やっている暇はない。


「君は、好きだから小説を書いているのだと思っていたよ。私の見込み違いだったみたいだ。本当に、自分の好きなジャンルは後回しにするのかい?」

「比べる価値もない」


 彼女は目を伏せ、僕に背を向けた。


 彼女が言っていることも正しいと思ってしまった、そんな屈辱的な現実から目を背けようと僕も目を伏せた。現実を認めて敗者になるわけにはいかない。


 僕はなにか間違っているだろうか。


 僕のダイヤモンドのようなメンタル、それが壊されたのはこの日だった。




「僕が間違っていた」


 一人呟く。


 彼女は僕が話しかけても何も言わず歩き去っていくだけになってしまって、もう取り返しはつかない。


 僕は一体、どうすればいいんだ。


 一人だっていうのはこれまでと変わらないはずなのに、執筆が全然進まない。


  僕はどうすればいいのか、その確かな答えなんかどこにもなくて、方法があるかも蓋然的だ。

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ダイヤモンド ナナシリア @nanasi20090127

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