第16話四章 ヘタレ魔王と裏切りの聖女③

***


 アレから。数日経ってもレオンはお城の中にいない。

 私はずっと使用人に勉強を教えてもらったりして、寂しさを誤魔化している。

 ああああ。レオン。どこに行っちゃったの? まさかあの流れで王になるのが嫌でってことないだろうし。

ああああああ。私が嫌になったとか? 嫌嫌嫌。レオンにかぎってそんなのはあり得ない。

一途で優しいレオンだからこそ、心配になる。一体何があったのだろうか。


 誘拐にしては、王も王妃も何も言わないし、静かすぎるし。何か理由があるのだろうか。

誰もどうして教えてくれないのだろうか。正直怖い。

 でも、そんな時でも私にできる事は自分磨きしかない。

何もしないで泣きじゃくってるような人は、次期王妃にはなれない。戻ってきたレオンに釣り合わない自分じゃいたくない。絶対に嫌だ。

 戻ってきたレオンに、見違えたなとか、素敵さが増したとか言われたい。


 どんな理由でレオンが消えたかはわからない。けれどレオンは絶対裏切らない。大丈夫、レオンだもん。信じれる。

 私はやる事をやるだけだ。

いろんな国の言葉を学んだり、身だしなみなり、作法だとか魔法についても学ぶべきだ。どれだけでもやる事はある。


 そう思い、私は努力を決意する。


 けれど。

 まさかあんな事になるなんて、さすがにこの時の私は思ってもなかったよね……。


***


「ああ、レオン会いたいなぁ。もう半年もレオンに会えてない……」


 思わず独り言を呟く私は、長かった三つ編みもさらに伸びて、最近はふわふわのウェーブヘアになった。

 ダンスも凄く上手く踊れるようになったし、いざとなったら綺麗な言葉遣いもできるようになれたと思う。多分。


 美味しいお菓子作りも前より上手くなったし、レオンの好きそうな料理も教えて貰えた。

 だからこそ、レオンがいない毎日は切なくて心が焼けるような気がした。

レオン、レオン、レオン。頭の中がレオンでいっぱいになり枕を濡らす日もあった。


「レオン会いたいよぉ」


 ひとり自室に篭りながら私は言った。暇すぎて、今も国について自習中だ。窓から見える青空と街に私はため息。

 はあ。この国本当に広いな、その分レオンがいないのが切ないなって思っていると、背後に気配。え?


「俺も、会いたかった」

「!? レオン!? いつ帰って……って、え!?」


 後ろを振り返った私は言葉を失った。

 そこには、髪の毛を短く切りツノを取り王子様そのものな姿レオンがいた。


 服も王族のしっかりとした生地の王子らしい服を着ている。


「え、え、ツノは!?」

「痛いけれど取った。変か?」


「ううん、凄くカッコいい!!」


 凄い凄いもともと美形だったけど品も加わってかなりヤバい感じ。


 神話や絵画に出てきそうな美貌の王子様って感じ!! 耽美!!

 私はレオンに向ける目をハートにしてウットリする。

 するとレオンは照れるように頬を赤くして私を抱き寄せた。


「そ、そうか。ありがとうピュア。ごめんな、寂しい思いをさせて」

「本当だよ! なんで半年もいなくなっていたの!? 寂しかったよ!! 死ぬほど悲しくて寂しかった!!」

「ごめん。本当にごめん。でも王子になるための修行をしなきゃピュアと結婚できないと言われて」

「!」

「ピュアじゃなく、釣り合うどこかの姫と結婚の話も出て、それは絶対嫌だと思ったから……」


 ええぇーーー!? どこかの姫!? レオンが別の人と結婚!?


 嫌! そんなの嫌!! 嫌嫌嫌嫌嫌!!


「それは、私も嫌よ! よかった、そうだったのね」


 でも、どうして言ってくれなかったの?

 何で? 泣きそうになる私。


「ただ、ピュアには俺は状況を心配しないように言いたかったんだけれど、父様達がピュアの忍耐力も見るべきだと言ってて」

「なるほど。それは一理あるわね」

 


 さすがに修行だってレオンだけってわけには行かないよね。

 実際私も色々教わってたわけで。

 それに、離れ離れになるだけで枯れる気持ちも、本物じゃないなって思うし。意味はわかるけど、本当に寂しかったし苦しかったよ。はあ。


 レオンは申し訳なさそうに私を見つめてキスをした。

 私もそっとレオンにキスを返す。


 そして見つめ合い、またお互いにキスをする。


 半年も会えなかった分、心と体が求めあう。私達やっぱり、愛し合ってる。


「でも、無事で本当によかった。レオン」


 たまに死んでるんじゃないかとか考えたんだよね。


 本当。それを王妃達が言えなくて黙ってるんじゃないかとか、馬鹿な妄想もしたっけなあ。

 それぐらい悲観的になる日もあったの。心がすごく不安定に直ぐなったし、仕方がないよね。レオンがそばにいなかったんだから。


「ああ。ピュアも可愛くなった、綺麗になった。元から可憐で素敵だったけれど、王妃にふさわしくなったと聞いている」

「まだまだだよ。私なんか」


 歴代王族や、他の国の姫や王妃に比べればきっと、まだまだってレベルじゃない。だって元は一般市民だし。ただ心が読めるだけだった村娘だし。


「嫌。ピュアは世界で一番可愛かったが、この世では比べ物にならないレベルになったと思う」

「そんな。だとしたら、レオンのた目にそう思ったままでいてもらえるよう頑張るわ」


 お世辞じゃないんだろうな、レオンだし。嬉しい。


「私にとってもレオンは最高よ。誰よりも好きで誰よりもカッコよくて時々可愛いわ」

「それは正直凄く照れるな。俺も、お前のためにどんどん上に上がるつもりだ。国民のためも、立派な王子になり、国王になるともう決めたんだ。誰もが笑顔で暮らせる、綺麗な国を作ろう」

「レオン」

「ピュア」


 そして深く抱きしめ合う私達。


 気がつけば私は泣きじゃくっていた。


「一生そばいてよ、レオン」

「ああ。もちろんだ。ピュア。ところで話があるんだが」

「何? レオン」


 レオンがキュに私から離れる。

 そして、ひざまずいた。私はポカンとしてレオンを見つめる。


 よく見れば、手には何かを持っている。


「ピュア、昔俺が魔王の時に渡した指輪を外してくれ」

「え。いやよ。せっかく貰ったのに」

「お願いだから」


 すがるようなレオンの声に私は首をかしげる。


「? はあ、よくわからないけれど、わかったわ」

「そして、これを受け取ってほしい」

「! 大きなダイアモンドの指輪!? 何これ!? 凄い、キラキラってレベルじゃない、嘘、国の刻印まで入ってる」


 え!? え!? え!? 何これ。


 眩しいってレベルじゃない輝き方。細かい宝石もすごいし、ベースの金色も上品すぎる。


「この国にだいたい伝わる指輪だそうだ」

「え!? 私そんなの貰っていいの!? 嬉しい……!!」


 でも、恐れ多い……これって世界にひとつの凄いものじゃん。国の宝じゃん。


「当然だ。ピュアのために少しサイズもいじった。どうか受け取ってほしい」


 宝石よりキラキラした目をして、レオンは言った。


「レオン、……はい」


 されるがままにレオンに指輪をはめてもらう。そして、レオンに渡されたレオンの指輪も定位置にはめて行く。

レオンのゆびわは男性向けだからか、宝石は控えめでゴツメだった。

 そして、指輪の交換が終わる宇都レオンが深呼吸して私をじっと見つめる。


 私はドキンと胸が跳ね上がるかと思った。


「ピュア」

「はい!」


 ビクリと体を跳ね上がらせて私は真っ直ぐ立つ。


「改めて、お前に心から言う」

「はい」


 ドキドキ……。


「ピュア。俺の、花嫁になってください」


 レオンの声は震え気味だった。


「……はい。もちろんです」


 私も、やっぱり声は震え気味。なんだか息まで荒くなってきた。

 もう、耳に心臓がついてるかってぐらい、ドキドキで耳が壊れそうだよ。でも多分、それはレオンも一緒。

 だって、全身が真っ赤だから。


「一生幸せにします、だから。ずっとそばにいて下さい」

「こちらこそ、幸せを返せるよう努力するんで、一生お願いします」


 二人で頭を下げあう。


「まだ改めて王族として結婚するって、レオンさんピュアちゃんに宣言してなかったの?」

「アーサー!? 何でここに!?」

「え!? アーサー君!?」


 まさかのアーサー乱入。なんか服が前より豪華になってる。多分王妃に渡されたてをんだろうなあ。


「言っとくけど、国民の前でも婚約発表とかしなきゃいけないからね。恥ずかしがり屋のレオンさん、特に覚悟してね」

「あ、ああ」

「勝手に部屋入らないでよ、アーサー」

「いや、何となく部屋の外まで熱気を感じたから」

「嘘でしょ!? アーサー」

「? 当然嘘だよ、ピュアちゃん」


 アーサー。自由すぎるよアーサー。


 そういえば、ちなみにアーサーはお城に仕えるための下準備中だったりする。

ダメでも使用人、よければ何か役職をって王妃が言ってた。この度胸の座り方は只者じゃないって判断らしい。

正直同意するわ。アーサーは大物になる。


「ふたりに飲み物持ってきたし、飲みなよう」

「ありがとう、アーサー君。美味しそうなピンク色のジュースだな」

「アーサー、ありがとう」


 そういえば喉が乾いてたんだよね。何だろう、この禍々しい色。何ジュースかな? まあ、いい。まずは喉を潤そう。

ゴクッと。うん、美味しい。体が温まるけれど、生姜でも入れたのかな?


「王妃様が何かが元気が爆発するものを入れてたし、ボウも戻ってそれをもらうからボクは退散するよ。じゃあね!」

「!? アーサー!?」

「アーサー君!?」


 呆然とする私達。

 気がつけば扉を外鍵で閉められていて。

 爆発って何!? それって、どう考えても精力剤じゃん!!


 なんか色々体が変な感じがするし。


 見つめ合う私達。もうすでに汗をかいて興奮気味のレオン。

恥ずかしそうにモジモジしてベッドの中に逃げ込んだ。その瞬間、私の方にスイッチが入った。


 そしてその夜、私達初めての夜を迎えた。


***


 何だか恥ずかしくて顔が合わせられない。

 初夜の後慌てて着替えてずっとレオンが起きるのを待って。

 結局またレオンが抱きついてきてキスをくれた。

 何かが吹っ切れたようにレオンは甘えてきて……いや、耳まで真っ赤ではあったけれど。


「ピュア、本当に大好きだ。誰にも渡さないし他の男を見ないでくれ。たとえアーサーでも嫌だ」

「レオン。私も同じ気持ちだよ。ずっとずっと私だけを見ててほしい」

「当然だろ、他の女なんか知りたくもない。一生ピュアだけの男でいたい。だから長生きして一生添い遂げたい」

「私もよ、レオン。愛してるしずーっとずっとレオンを愛し続けたいわ」


 そう言いながらいちゃつき合う私達。

 でも、そろそろ朝ご飯だ。お腹がすいた。


 やっぱり王妃達に書屋のことをからかわれるだろうか。薬まで盛るぐらいだし。

後、アーサーは無事だろうか。正直不安だ。何もわからないまま精力剤を読んでそうで。あの子は天然だから。


「子供ができたら正直ヤキモチ焼くな、俺」

「私もよ。いいじゃない。子供が嫉妬する夫婦」

「国中に見せつけてやろう。俺たちの愛の強さを。そして俺たちの愛で国をさらに繁栄させて行こう」


 レオンの目がギラギラしている。野心に溢れた目だ。


「そうね。一緒に国を探検しましょうよ。それで、色々なものを見て、色々なアイデアを出して、国の平和を極めるのよ。学校も増やしたいわね。私も学校に行きたかったもの。もちろん学費はタダよ。みんな平等に通えるようにね」

「いいな。ナイスアイデアだ。ピュア」

「他にも、できる事がいっぱいあるはずよ。病院とかも行きやすいようにしたりね」

「なるほど。確かに病院は大事だな。もしピュアが子供ができた時も」

「レオン、先走りすぎ。だけどそれも大事ね。子供を作りやすい国づくりも」


 ふむふむ、とレオンが納得した表情をする。

 城の中からだけじゃない。体感する事でわかることも絶対に多いはずだから。


 心の声は聞こえなくなっても、近くへ行ってリアルな声を聞く。それって国作りだけじゃなく人間関係にとってもかなり重要な事だと思うしね。

 王妃でも、村娘でも、姫でも、何でも。私は私らしく生きることは大事だれど、相手に合わせることも大事だし。

レオンだけじゃなく、他の人のことも考えれる素敵な王妃になりたい。

そして、母親にもなりたい。


 誰かも尊敬される王妃は難しくても、そうなれるように努力したい。

レオンを支える良妻賢母になりたいし、なりたいものが溢れてる。

 村娘として、絶望していたあの頃には考えられないぐらいに。今の私は希望に溢れている。


「どんな赤ちゃんが生まれるのかなぁ」

「気が早いぞ、ピュア」

「レオンに似て可愛い子だといいけれど」


 絶対可愛いし綺麗だよ。マジ天使なんだろうなあ。あー子供時代のレオン、見たかったなぁー。はああ。


「それはこっちのセリフだ。俺はピュア似がいい」


 不満そうなレオン。えー。レオンの素直さと美貌は受け継ぐべきだよ。最強の王子様やお姫様になるし。私は普通のルックスじゃん。特技もないし長所もないし。むむむ。


「レオン似!!」

「ピュア似!!」

「「ぐぬぬぬぬ、プハッ」」

「結局お互い大好き同士じゃないの。私達」

「そうだな。まあ、ピュアは美少女だから」

「ありえないわ。レオンが美形なだけよ“」

「それはない!」

「こっちもない!」


 ふたり言い争いながら吹き出す。ぶっちゃけどちらでも可愛いとは思うけれど。

「心の声は、遺伝しないはずだけれどもししてしまったら私がその子の苦悩を全て支えるわ」

「俺も、できる限りは力を貸す」

「ありがとう。夫婦だもんな。力を貸しあいたいよな」

 まだ見慣れない美貌を振りまくレオンに私は動揺しながらうなずく。

「そうね。でも私は言い切れるわ」

「何をだ? ピュア」

 不思議そうに首を傾げるレオン。

「あのね、私。絶対確信してるのよ」

「? 確信??」


 ジッとレオンは私を見つめる。私は思わずウィンクする。

 そして元気よく言った。


「レオンがいれば私は何でもできる、ってね」


 私はレオンにキスをして、にこやかに笑った。


「さあ、一緒にご飯を食べに行きましょう」


 気持ちを切り替えルンルンな私。少し戸惑い気味のレオン・


「あ、ああ?」

「今日の朝ごはんは何かなー。楽しみ」


 レオンの手を引いて私は部屋を出る。

 さあ。今日も明日へ向かって頑張ろう。

 何があっても諦めない、泣いたって前を向いていこう。


 絶対に諦めるとかはありえないよね。

 だって。


 毎日がレオンと私にとって新しい世界への出発なのだから。


End

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心読みの花嫁と孤独な魔王 花野 有里 (はなの あいり) @hananoribo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ