誰も知らない

あたらよ

第1話 図書館のバラ

いつもの図書館。

受験戦争が終わり、少し悲しげな館内は本の独特な匂いと静けさが戻っていた。

 誰ともすれ違わずに階段を上る。

 三階の受付。小さな花瓶に一輪のたんぽぽの花が活けてある。

「おはようございます。図書カードの提示をお願いします」

「お願いします」

 そう言いながら図書カードを差し出す。

「Aの23番で12時までです。」

「ありがとうございます」

 必要最低限の会話。

 そこに何かある訳ではない。だが、心がほっとする 。

 平和だ。

 事件やら戦争やら、本の中のフィクションで十分だ。

 話し合いではだめなのか。言語を持っているのだから。

 そんなことを考えながら、自分の席を探す。

 早速、勉強道具を広げようとしたが、パーテーションの向こう側に見える一輪のバラに気づき席を立ちあがった。

 誰も座らないはずの席に置いてある一輪のバラ。

凛とそこに佇んでいる。

「君はどこから来たの?」

当然答えなんて帰ってこないが、その分妄想が捗る。

誰が? 何のために?


もしかしたら…


受験戦争に敗北し、自ら逝ってしまった人がいつも使っていた席で、その弔いの花かもしれない

かもしれない


もしかしたら…


好きな人に告白しようと持ってきたが、勇気が出しきれずに置いて行って

かもしれない


もしかしたら


世界的なアーティストが何かの意図をもってここに置いて行った。凄い価値のある作品の一部

かもしれない


正解の物語など誰も知らない。

だから面白い




    あとがき


世界には、「もしかしたら」から始まり「かもしれない」で終わる小さな物語が無数に存在している

それに遭遇した時、僕は無性にわくわくしてたまらなくなる。

僕、「あたらよ」は、小さな物語を綴る。





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誰も知らない あたらよ @yogitu20

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