第2話 レオシュと雅子夫人(妻)/健康篇

 中年チェコ人レオシュには、同じく中年の日本人妻雅子夫人がいる。黒髪ボブに中肉中背、元気な子供達のおかげで(ぎりぎり)小太りは免れている感じだ。ひょんな縁からレオシュと出会い家族になったおかげで、良くも悪くも濃い人生を送ることになったなと、時折別の人生に想いを馳せつつも、現状にわりと満足している。


 雅子夫人にとってレオシュは、ちょっと面倒くさい人である。例えば、コインの表を見た時に、一度は必ずその裏を考え、その本質をあーだこーだ考え始めるレオシュと、裏があろうが見えているものが表ならばその場での本質は表にあると考える雅子夫人とでは、根本的に物の捉え方が違っている。


 さて、12月の早朝に話を戻そう。レオシュが仕事に出かけた後のキッチンでは、雅子夫人がテーブルにこぼれた紙巻きタバコの屑を拭き取りながら考えていた。心配性の夫は、自身の体調変化に良く気がつき、医者にも相談しに行ったりするのだが、この日も朝から便秘と息苦しさについてこぼしていた。


 しかしである。宵っ張りのうえ夜中に暴食、翌日の朝は濃いコーヒーに少量の甘味のみで仕事にでかける。それに加えて長時間のデスクワークの合間の息抜きは紙巻きタバコ。どう考えてもレオシュが体に悪い生活をしていることは明らかだ。


 レオシュの場合、便秘は起きがけグラス1杯の水で解消されるし、23時頃までに寝れば翌日は朝食も普通に食べられる。煙草は止められないだろうけれど、病気で本数を減らしていた時には、息苦しさが消えたと喜んでいた。


 夫に言わせると、宵っ張りなのは寝られないせいでしかたなくそうなった結果であり、暴食は酒に走らないための苦肉の策。起きがけの水に関しては、朝は嗅覚が敏感なため水道水は飲みたくない。かといって水を買うようになり飲水としての水道水の安全度が分からなくなるようなこともしたくない。禁煙は心の調子が調わなければ始められない。


 ほう。なるほど。


 「体を労りたいなら、はよう寝ろ、水を飲め、煙草やめい。」


 そう口に出してみても仕方がない。本人がどうしようもないというのなら、それはやっぱり本人にとってはどうしようもないことなのかもしれない。しかし、じゃあ夫は何故にそこまで自身の体調不良に敏感に反応するのか。こう考えて、やはり今日も雅子夫人は首を傾げる。


 しかし、経験上これを突き詰めて考えてみたところで問題は解決しない。そうなると雅子夫人の目下の課題は、何に反応するべきかの選択になる。つまり今回の場合①不調を訴える心に寄り添うか②明確な不調原因である便秘の解消法として朝起きがけに水をいかに飲ませるかの2択である。


 雅子夫人にこの2つを同時に行う心のキャパシティはない。なぜならば猛烈にイラッとするから。この翌朝、雅子夫人が薬局で購入したVincentka(ヴィンツェントカ)なるミネラル水をまだ寝ぼけ途中のレオシュに飲ませ、あまりの不味さに「私に何を飲ませた!?」と飛び起きた夫に、腰が抜けるほど驚かされることになろうとは、この時の雅子夫人はまだ知らない。


 まぁ、結果無事にレオシュのひどい便秘は解消されたのだから、それが良い選択であったことは間違いないだろう。レオシュは本当に良い妻をもったものである。


 



 

 


 


 

 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

カオティック・レオシュ よねみ @Aggy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ