カオティック・レオシュ
よねみ
第1話 カオティック・レオシュ
12月初旬、とある月曜日の早朝、プラハの某広場前2車線道路の間の浮島に作られたトラムの停留所には、すでに幾人かの姿が見える。まだ出勤ラッシュには時間があるせいか、街灯に照らされて見える人々の表情は比較的穏やかだ。彼らの白い吐息が、1つ2つ、暗い空へと消えていく。
トラムの停留所から広場側へと道路を渡るとすぐに小さな屋根つきのバス停がある。その後ろには大小の西洋菩提樹が不規則に数本並んで立っているのだが、今、木々にまじって1人の男の姿が見える。
黒い襟付きコートにグレーの格子柄の入った厚手の黒いネックウォーマー、濃いグレーのハンティング帽に黒い革靴、パソコンを入れたビジネスリュックさえ黒という、全身黒尽くめの出で立ちだ。
男は紙巻たばこを吸いながら、仕事場へのトラムが来るのを待っているようだ。「黒は都会の保護色だ」と言う人もいるが、いかんせん、この男が心の内に抱える強烈なカオスは、保護色にも隠しきれず、何だか周囲にもれ出ている。
誰よりも平和を愛し暴力を憎むこの男の優しさと誠実さは、残念ながら、身内や数人の(これまたカオスな)友人を除いては周囲に全く伝わらない。親切心が裏目に出た残念なエピソードは数多にもなるが、長くなるのでそれはまたいつかの機会に書こうと思う。
ふいに、男が紙巻たばこを消し、トラム停へと道路を渡った。どうやら職場へ向うトラムが来たようだ。真っ黒なリュックの左下にはLOGOS(理性)の文字。LOGOSのLは、偶然にもこの男の名前LEOŠ(レオシュ)のLだったりもするのである。
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