第9話 敗者復活戦!


 「結束オバケ」対「東京ひじきーず」の戦いは、1勝1敗となり3セット目へもつれ込んだのだが、娘の出番はこれで終了だった。

 全員がお手付きをし、もりお氏が3枚ゲットするというミラクルはあったものの、8-52の大差で敗退してしまった。

 

 3回戦の相手は、「ぴことらまる」。

 「東京ひじきーず」にはストレート負けをしているが、「おにぎり」にはストレート勝ちをしている相手。

 順調にいけば、娘は勝てるだろうが、決して油断できる相手ではなかった。


 陽が沈み始め、カーテンの隙から光がプレイヤーに当たってきたので、僕がカーテンを押さえながら、娘の試合を見守った。

 娘がキャッチする度に、「速い!」「すげえ!」という声が聞こえてくる。

 好調だったのか、1セット目は54-6で圧勝した。

 だが「ぴことらまる」もただ者ではなかった。

 

 2セット目の後半、僕から見て手前の男性が猛烈な勢いで追い上げてきた。

 特にオバケをキャッチする速度は神がかっていて、娘が一歩も動けないことが何度かあった。

 それでもわずかに届かず、41-19で「結束オバケ」が勝利した。


 各リーグからは1位のみが、準決勝へと進出する。

 Cリーグからは、ストレート勝ちを決めた「東京ひじきーず」。

 Aリーグからは、さわこちゃん率いる「ヴァーテックス福村」、Bリーグからは、べるてぃさん率いる「ゴーストバスターズ」がそれぞれ、準決勝へとコマを進めた。

 

 そして準決勝の枠は、もうひとつある。

 敗者復活枠だ。


 「結束オバケ」はこの敗者復活戦にエントリーする資格を得ていた。

 各チームから1名を選出し、3セットの試合結果で、復活する1チームが決定する。


 つまり、テーブルに着く全員が敵なのだ。

 ここで娘は、最大の天敵と相対することとなる。


 前大会の優勝者であり、イマムラ氏のライバルではないライバル。

 千代氏だった。


 「結束オバケ」代表の娘、「小ミニオンズ2」代表ののーでぃ氏、「ぺこたち」代表のあっきー氏、そして「ちよかわVer2」代表の千代氏。

 

 一度は敗北の苦汁を舐め、不死鳥のごとく復活するため修羅になることを誓った、おばけキャッチャーたちが、ここに集結していた。

 その勝利への執念は、まさに天元を貫くドリルであった。


「それでは、いきま~す!」

 

 審判がカードをめくる。

 と同時に、凄まじい気迫がぶつかり合った。

 これほどの者が一度は負けたなどあり得ない。

 そう思わせるほどの、俊敏な動きだった。


 カードが次々にめくられていく。

 周囲の気迫に気圧されることなく、娘はカードをゲットしていく。

 だが、他のプレイヤーとの差は、一向に開く気配はない。


(まさか……、実力が拮抗しているのか?)


 そう、4人の代表者の獲得枚数は、ほぼほぼ同じだった。

 いや、若干、千代氏がリードしているような気はする。

 前回の優勝者である千代氏の取りは、力強く安定していた。


 終始場を盛り上げていたイマムラ氏は、千代氏がミスをするとここぞとばかりに煽り、チームメイトののーでぃ氏がゲットすると、見せつけるように肩を叩いて彼女を褒め、千代氏に精神的な揺さぶりをかけていたが、千代氏はまったく動じていなかった。

 っていうか、いちゃつくイマムラ氏たちを見て一番動揺していたのは、うちの娘だと思う。

 お年頃なんで。


 復活をかけた戦いの第一回戦が終了した。

 うすうす理解していたが、驚くほど僅差の戦いだった。

 のーでぃ氏、11枚。

 あっきー氏、13枚。

 娘、15枚。

 千代氏、21枚。


 僕のところに戻ってきた娘が、興奮して言ってきた。

「みんな、強かった」

「ああ」


 僕は少し素っ気ない返事をしてしまった。

 正直、ショックを受けていた。

 千代氏との差は、6枚。

 だけど、大きな6枚だ。

 

 ひじき氏、かもしー隊長、そして千代氏。

 霊長類最強だと思っていた娘は、すでに3人に負けていた。

 優勝への道筋が、ふっと消え失せていた。

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