第8話 魔王再び


 「結束バニラ」の次の相手は、「東京ひじきーず」だった。

早くも雪辱を晴らすための再戦の機会がやってきたのだ。


 敵の先鋒はひじき氏とかもしー隊長、こちらは娘とはるき君で迎え撃つ。

 高速具を外し、身軽になった魔王と隊長を前に、果たしてどこまで戦えるのか?

 「おにぎり」との戦いで、娘は右手前と左手前にカードを置かれたときが、極端に苦手であることが分かった。

 いくつか対策を考えたが、あまり効果はなかった。

 それに彼らは、つけ焼き刃の戦略でどうにかなる相手ではない。


(あとは得意札の出るタイミング次第か……)


 祈るような気持で娘の背後に立った。

 今まさに、運命の一戦が始まった。


「いきま~す!」

 審判がカードをめくった。

 

「オラッ!!」

「無駄無駄無駄!!」

「ドラァッ!!」


 激しい拳圧がテーブルの上で爆ぜた。


「うおっ!」


 僕は吹っ飛ばされ、背中を壁にしたたか打ち付けた。

 棚の上のボドゲもカタカタと揺れている。


 1枚目。

 娘、ひじき氏、かもしー隊長が同時に動いていた。

 そして、その戦いを制したのは、


「うおおおお! はええ!」

 

 娘のとき以上に、周囲が驚きと感嘆の声をあげる。

 誰よりも速くオブジェを掴んでいたのは、かもしー隊長だった。

 

(……強い)


 この激しい衝突が、あと59回も行われるのだ。


 かもしー隊長がゲットすれば、次はひじき氏がゲットする。

 だが娘も負けてはいなかった。

 実質3度目の対戦。

 娘も魔王と隊長の動きに反応してきていた。

 さらには、はるき君の援護も加わってくる。


 バシュ! ドシュッ! バキッ!!


 何度も何度も、凄まじいキャッチ音が響き渡る。

 わずか数フレーム差。その一瞬で、誰がゲットしたかが決まる。


 時にはほぼ同時すぎて、周囲に審判をゆだねることもあった。

 だが強者であり参加者である彼らも、どちらが先にゲットしたのか、判断に迷うことが幾度もあった。

 来年はVARが設置されていることだろう。


 やがてハルマゲドンも終戦の時を迎えた。

 それぞれがカードの枚数を報告する。

 かもしー隊長、20枚。

 ひじき氏、18枚。

 娘は、17枚で、はるき君が5枚だった。


 枚数だけ見れば、娘は魔王と隊長相手に、善戦したと言えるだろう。

 だが、チームとしては負けだった。


 次に2セット目の戦い。

 かもしー隊長に代わり、アンディ氏が入り、はるき君に代わり、もりお氏が入る。

 この戦いで奇跡が起こった。


「おい、嘘だろ?」

「マジか……」


 周囲から、戸惑いと驚きと、感嘆の声が漏れ聞こえてきた。

 いや、それらは確かに、僕の口からも漏れていた。


 娘、31枚。

 ひじき氏、22枚。

 アンディ氏、6枚。

 もりお氏、1枚。


 娘が再び、ひじき氏に圧勝していた。

 32-28で、「結束オバケ」が「東京ひじきーず」を破ったのだ。

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