第5話 東京最強軍団


「絶対違うから。馬鹿じゃねえの? 脳みそ腐ってる?」

 再度、娘に否定された。

「ふっ。人生経験の少ないお子ちゃまには、世間の多様性はまだ理解できないようだな。彼女こそが、お前のライバル、さわこちゃんなのだ!」

「どう見ても、おっさんだろ?」

「いや、おっさん言うな。失礼だろ」

「だったら確かめてこいよ。違ったら眼鏡割るからな」


 僕はひじき氏に質問した。

「さっき娘と戦った、あの人なんですけど」

「はい」

「あの子が、さわこちゃんなんですね?」

「え?」

「え?」

「……」

「……」

「彼は、かもしーさん、です」

 そのとき、ひじき氏の目がキランと怪しく光ったような気がした。

「…隊長です」

「隊長!? まさか、卍解が使えるという、あの…?」

 どおりですさまじい霊圧を感じたわけだ。


 僕はさっそく娘の元に戻った。

「娘よ。聞いて驚け。彼は隊長クラスの霊圧を持った人物だった!」

「で? さわこちゃんだったか?」

「ふっ、何を言ってるんだ、我が娘よ。さわこちゃんは中一の少女だぞ? あんな、お──」

 パリン!

 眼鏡を叩き割られた。


「娘よ。分かっていると思うが、このままじゃ優勝は無理だ」

 僕はこんなこともあろうかと準備していた予備の眼鏡をかけながら言った。

「うん。なんか調子出ない」

 娘が本調子でないことは気づいていた。だが、大会では結果がすべてだ。言い訳にもならない。

 けれど、わずかながら幸運はこちらにあった。

 事前に本戦と同じように卓を囲んだことで、娘の致命的な過ちに気づくことができたのだ。


「娘よ。お前が負けた理由を教えてやろうか?」

「言い方が嫌。もっと取引先に言うように言って」

 お前はどこの引きこもりゲーマーだよ?



 娘のボロ負けの原因。

 それは体の重心だった。

 娘が家でおばけキャッチをプレイするときは、床の上でやっていた。

 前かがみになるため、当然ながら重心は前にある。


 だが、卓で戦う娘は、椅子に深く腰掛け、重心を後ろに傾けていた。

 そこから札を見て、重心を前に動かして手を伸ばしていたのだ。

動きがワンテンポ遅れるのは当然の帰結。

 今までの相手なら、それで勝っていただろう。

 だが化物たちの巣窟で、そのロスは、ダイレクトシュートが撃てない潔世一のようなものだった。


「椅子には浅く座れ、最初から重心を前に出しておくんだ」

 僕は娘に指導を加え、かもしー隊長との再戦をお願いした。

「今度は私も入りますね」

 はるき君に代わり、ひじき氏が卓に座った。

「東京ひじきーず全員集合ですね」


 その科白に、僕はぎょっとなった。

 そうだ。どうして気づかなかったのか?


 「東京ひじきーず」

 僕はその名前を聞いたことがあった。


 強者を求めて東京中の猛者と死闘を繰り広げた魔王ひじき氏が認めた、精鋭の中の精鋭。

 通常チームは強さが偏るのを避け、強者が集うのはNGとされているなか、東京から来るのだからという理由で、今回だけ免除された規格外チート級の優勝候補。

 それが、「東京ひじきーず」だ。

 名実ともに、東京でもっとも強い3人組である。


 だが、偶然かもしれないが、2度も魔王ひじき氏に勝ったのだ。

 まだ奇跡が起こる可能性はあった。

 

 もりお氏がカードを置く。

 ひじき氏がカードをゲットし、次はかもしー隊長、その次はアンディ氏がカードをゲットした。

 だが次のカードは娘がゲットした。

 4枚目で全員1枚ずつ。

 やはりというか、接戦だった。


 だが、徐々に差は開いていく。

 変わらず、かもしー隊長は強かった。

 重心を前にした娘は、前回よりも動けているが、まだ隊長格には届かない。

 さらには、先ほど勝ったひじき氏にも押されているようだった。


「最後の一枚です」

 無情にも、もりお氏の最後を告げる声が聞こえてきた。


 バシュっ!


 何度も聞いた、オブジェクトをキャッチする音。

 ラストを制したのは、かもしー隊長だった。


 そしてまた、娘は隊長には勝てなかった。

 さらには、ひじき氏にも負けていた。


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