七 薪

 春休みになった。父も春休みで家にいる日が多い。

 林の雑木を薪にするため、ぼくと兄が杉林に残っている橅の大木の根元の残雪をスコップで掘り、父と叔父が橅をチェーンソーで伐採した。

 倒れた橅の枝を切りはなし、クレーンつきのトラックの横幅におさまるように幹と枝を百八十センチほどの長さに切り、トラックのクレーンで荷台に横積みにした。あとは我家の庭に運ぶだけだ。


 庭に運ばれた橅を、父がチェーンソーで六十センチほどの長さに切り、それらをぼくと兄が割って薪にする。この作業で使うのは上半身が多い。下半身はじっくり踏んばって上体を支えるだけだ。上半身は熱くなるけれど、下半身はあまり動かないので冷える。子どもが薪割りしている家は我家だけだ。


 庭先の軒下の四か所に、積んだ薪がくずれないよう丸太の支柱が軒先までとどいている。

 割った薪を軒下に運び、丸太の支柱のあいだに軒下まで積んだ。

 薪を積みながら、円空がなぜ、仏像を彫れたのか考えるが、何も思いつかなかった。

 ぼくはしばらく仏像彫りを考えないことにした。

 丸太を彫った仏像は、ひっそりと板の間の隅に立っていた。



 夏休みになった。

 軒下の薪が乾燥した。一輪車に薪を積み、家の中の薪置き場へかたづけていたら、橅の薪の割られた表面に、何かの人の顔が見えた。長さ六十センチほどの、大人の拳ほどの太さの薪だ。ぼくは薪を手にとってしばらく見つめた。

 これまで薪の表面に顔が見えたことなんかなかった。よくよく見たら、薪の中に顔が隠れているように見える。なんとかして彫りだしてやらなければならないと思った。特別な薪に思えたので、かたづけずに軒下のすみにとっておいた。

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