六 円空仏の画集
寒さが厳しくなった二月はじめ。
「この本、見たいか?」
父がぼくに画集をよこした。円空仏の画集だった。ページを開いたら、テレビで放送された円空仏の姿が画集にのっていた。父がぼくのために、注文して取りよせたらしかった。
やはり、円空仏は荒削りだ。寺の仏像のような衣などの細工は無いけれど、仏像それぞれに人の表情がいろいろあって、ただほほえんでいるような寺の仏像とはちがっていた。ぼくは円空仏の一つ一つが、ぼくの知っている近所の爺ちゃんや婆ちゃん、おじさんやおばさんたちに似ている気がした。
どこかのお寺に納められた、たくさんの地蔵さんには、納めた人の顔が彫ってあると聞いたことがあった。円空仏も、村の人に頼まれた円空が、村人の顔に似せて作ったのかも知れない・・・。
ぼくが彫った仏像は仏像でない気がした。ただ丸太を彫って坊さんの姿に似せているだけだ。そう思ったのは、ぼくが、仏さんの姿を知らないのに気づいたからだ。
大人に訊いても、仏さんは寺の仏像のような姿だとか、地蔵さんのような姿をしているとしか話してくれない。大人も仏さんのほんとうの姿を知らないのだろう。ぼくが話している仏さんは亡くなった人のことじゃない。
父の書斎の本でいろいろ調べたら、仏さんは仏教の教えを説いたお釈迦さんのことだとわかった。仏教の教えにでてくる如来や菩薩のこともそう呼ぶのだとわかった。地蔵さんは地蔵菩薩だ。大人は知ったように話すけど、実際は知らないことが多い。祖父母も円空を知らなかった。
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