第2話 現在
「・・・ふわっ!?・・・あっ、やっべぇ〜採点してたらいつの間にか寝てた」
部屋のカーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。
どうやら昨日、生徒たちにやらせた小テストの採点中に睡魔に負けて机に突っ伏して寝ていたらしい。
体を起こすと関節の節々からボキボキと音を鳴らし、かけていたメガネ型デバイスを外す。
「今、何時だよ・・・5時か。シャワー浴びて、準備しないと」
机の上にあった時計に目をやると出勤の一時間前だった。
俺は体からの悲鳴を一旦無視して、立ち上がりシャワーを浴びる準備を始める。
箪笥から着替えを出そうとすると箪笥の隙間から何かがひらひらと落ちてきた。
拾ってみるとそれは少し古い写真だった、そこに写っていたのは高校の制服を着ていて頭に手を置かれて不貞腐れている少年とスーツを着て笑いながら少年の頭に手を置いている青年だった。
「・・・あれから9年か。兄貴、俺兄貴みたいになれてんのかな?」
その写真を眺めながら、あの時のことを振り返る。
グシャっと音が聞こえた。
手元を見てみると写真を持っていた部分がグシャグシャになっていた、どうやら無意識のうちに力が入っていた。
「・・・なれてるわけねぇか」
俺はシワになってしまった箇所を伸ばして、机の上にゆっくりと置き
「俺が兄貴みたいになれるわけがない」
ゆっくりと首を振って俺、
「ふぅ〜さっぱりした」
まだ水滴を含んでいる髪を拭きながら再びメガネ型のデバイスをかけ、メガネの横を軽く叩いて起動させた。
本日の予定と先程まで採点していたテストのデータを流し見し、寝巻きからジャージに着替える。
着替え終わると冷蔵庫の中身を確認してみるが食べれそうなものがなかったのでひとまず牛乳を行儀が悪いが直飲みし、飲み切った牛乳パックをすすぐ。
「速報です、××町付近で中型のアナザーが出現しました!近隣住民の方は避難の準備をしてください!」
すすいでいると突然デバイスからアナザーの出現警報がなった。
アナザーとは今から9年前に突如として現れた人類の敵、動物のような姿をしているがとても凶暴で人間を食らう。
アナザーは大きさによって種別が変わる。
種別は小型、中型、大型、超大型の四種類に分かれているが超大型が現れたのは6年前のスタンピード現象の時だけであり、それ以来超大型は出現していない。
今回出たのは中型であるため、そこまでの被害は出ないであろう。
そう思い、デバイスの警報を消して洗った牛乳パックを捨て時間を確認する。
「さてと、そろそろ行く時間か」
デバイスで時刻を確認してみると出勤時刻だった。
身なりを整えて玄関の扉に手をかける。
「行ってきます」
そう言って職場である学校に足を運んだ。
「おはようございます」
「おはようございます、綾瀬先生」
自宅から徒歩15分、職場である高校に到着し職員室の扉を開けながら挨拶する。
同僚からの挨拶に会釈しながら自分の席に着く。
再び、メガネ型デバイスを起動させ昨日採点したデータを授業で使うデバイスに移行させる。
移行が完了するのに時間が少しかかるので職員室の端っこに置いてあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる。
ちなみに俺はブラックが飲めないので毎回ガムシロを二つとミルクをいっぱい入れている、だって苦いの無理なんだもん。
「おはようございます、綾瀬先生」
「あ、おはようございます教頭先生」
コーヒーを淹れ終わると横の印刷室から教頭先生が出てきた。
「綾瀬先生、××町の近くにお住まいですよね。大丈夫でしたか?」
「大丈夫でしたよ、そんなに近くありませんでしたし」
教頭先生からの質問に答えながらマドラーでコーヒーをかき混ぜる。
「ならいいです、今日も頑張っていきましょう」
「はい」
教頭先生との会話を終わらせ、席に戻るとちょうどデータの移行が完了した。
データにバグがないことを確認しながら甘いコーヒーを口に含み職員会議までの時間を潰した。
「お〜い、そろそろ授業始まるぞ。席つけ〜」
「あ、綾瀬先生だ〜早えよ〜」
「早くねぇよ、あと3分で始まるぞ」
「へぇ〜い」
職員会議が終わると今日は一限から2-Aの現代文の授業があるので授業用のデバイスを持って教室に向かった。
授業開始3分前に到着し、ドアを開けるとまだ生徒たちはガヤガヤ騒いでいる。
クラスのお調子者を軽くあしらい教卓の前に立つと綺麗な黒色ロングの生徒が教卓に近づいてきた。
「綾瀬先生」
「お、どうした?
この生徒はこのクラスの学級委員長の神田、礼儀正しく成績優秀でとても優しい性格をしている女の子だ。
「なんか忘れ物か?」
「いいえ、ここの部分がわからなくて」
そう言って神田のデバイスからデータが届く。
確認してみるとどうやら、登場人物の心情関係のところがわからないらしい。
「あぁ〜ここな。ここはこの部分のところをよく読んでみるとわかりやすいぞ」
「そこですね、ありがとうございます」
データに印をつけて、返信すると確認したのちにお辞儀をしてそのまま自分の席に帰って行った。
さっき聞かれた部分に自分の方のデータにも書き加えておく。
そうこうしていると授業開始のチャイムが鳴った。
「委員長、号令」
「気をつけ・・礼」
「「「お願いします」」」
「はい、お願いします。それじゃあ、この前やった小テストを返して《ピンポンパンポーン》」
小テストを返そうとすると再びチャイムが鳴った。
なんだ?
「綾瀬先生、綾瀬先生。お客様がお見えです、至急校長室にお越しください」
・・・・はい?
「先生、なんかやらかしちゃったの!?」
「いやいや!!何もしてないって!」
お調子者の生徒からの言葉を全力で否定する。
まじでなんかやらかしちゃったっけ?覚えがない。
でもまぁ、呼び出されちゃったし行くか。
「ちょっと言ってくるから自習な。あんまり大声出すなよ、隣で授業してるの鬼山先生だからな」
怖い先生の名前を出して、お調子者に釘を刺すと教室を出た。
このあと、自分の身に起こることを知らずに・・・
灰滅<かいめつ>の剣客<エスパーダシン> 雑作家ミナト @zatusakkaminato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。灰滅<かいめつ>の剣客<エスパーダシン>の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます