終末小品

あけぼの

第1話 空腹

 お腹が空いた午前3時。電気の通わない冷蔵庫の中を何十回も確認したが空だった。私は食料が無くなってしまった事実を受け入れなくてはならなかった。

 外にはもう三ヶ月も出ていない。その間、私は外部と連絡を取れていなかった。私は孤立していた。

 都会育ちの社会の情勢に真摯な私が情報弱者になろうとは、三ヶ月前までは想像できなかった。

 空腹を紛らわすため、三ヶ月間閉めっぱなしのカーテンの隙間から窓の外を見れば、電灯の明かり一つもない大地では真っ暗な闇が広がり、飛行機の一機も飛ばない夜空では星々が輝いている。

 私が夜の世界の変化に初めて気付いた時、人間はこれまで文明を発達させて、雄大な星空を大地に堕としてしまったのだと思った。

 外の闇から、私は視線を感じた。

 私は視線の主を見た事が無かった。

 ただ外の闇にいる事だけは確かだった。

 私は静かに窓から離れ、寝室のベットにうずくまった。

 私はこれから餓死する自分を想像した。壮絶な最期、苦しみながら孤独に死に、床のシミになる哀れな私。ゾッとした。そんな死に方はしたくないと思った。

 しかし、私には自殺をする勇気もなかった。私は何かを信仰している訳ではなかったかが、私は自殺をしたら自分の魂、これまでの人生を侮辱するような気がした。

 どうしようもない。三ヶ月前に私の人生の着地点は餓死に決まっていたのだ。

 ゆっくり目を閉じた。腹が弱音を吐く。私は痛みに嫌悪感を感じながら、考える事をやめた。

 腹と背中がくっつきそうな頃、朝がやってきた。窓の外を確認すればどんよりとした曇天で、私にぴったりの天気だった。視線は感じなかった。

 私は覚悟を決めることにした。三ヶ月ぶりに外に出ようと考えた。床のシミになる結末ならば、外に出ても変わらないように思った。

 私はリュックに必要そうな物を詰めて背負い、三ヶ月ぶりに玄関に向き合った。

 私は恐る恐るドアノブに手をかけ、捻り、封印されたドアを開け、外に出た。

 外は生暖かい風が吹いていた。心地が良かった。

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終末小品 あけぼの @akadaidai

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