パンは腐っていたら食べられない。

下手な小説家

第1話 パンの登場

─私の恋はまだ始まったばかりなのだから─


そんなありきたりな文章で終わりを迎える、手に持っている小説。

内容もありきたりなもので、探せば似たような作品は10も20も見つかることだろう。現に、私はこんな内容の小説を何度か見たことがある。

その文章にたどり着くまでの過程が違おうが、最終的な結果が一緒なら、それはもう類似作品と言っても差し支えない。


例えるとするならば、パンを作る過程で米粉を使おうが、小麦粉を使おうが、最終的にパンと世間一般的に呼ばれるものを作れれば、材料なんてあまり関係ないのだ。

そこに『まずい』や『うまい』、『あまい』『からい』などの個人的な感想は加わる事はあれど、”パン”という結果が変わること、覆ることは絶対にない。


だが、ここで間違えないで欲しいのが、私たちはパンそのものを感じ取って食べているわけではなく、パンの甘さだったり、辛さなどの、いわゆる美味しさ、と呼ばれる一部分を感じ取ってるに過ぎないのだ。


つまり?

その、なんだ。

たとえ、今目の前に女の子が昔可愛くなくても、今が可愛かったらそれでオールOKなのだ。

重要なのは、可愛くなるまでの過程ではなく、今、可愛いかどうか。なのだから。

しかし、パン・・・ではなくて、彼女の外見だけを見て判断するのはよくない。


見た目は良くても、中を見れば腐っていた。なんて事案はしょっちゅうある事なのだから。無論、中身も見た目も明らかに腐っている奴は論外だがね。


「おじさん!あそぼ?」


優しく声をかけてくるのは、6歳年下のリアルJK。そして、俺の義兄の姪。名前は棗 明日奈ナツメ アスナ

地毛の金髪は長く、程々に高くなった背は人の成長というものをしみじみ実感させてくれる。大きく見開いた目には、親から受け継いだコバルトブルーの美しい青色が見える。

JKらしいスカートを穿き、ガウンジャケットを羽織い、大きな胸を強調しているようなその服装は、実にかわいらしいものである。



そして、そんなかわいらしい女の子はどうやら、私と一緒に遊びたいようだ。


「君と6歳しか変わらないのに、おじさんとはね…」


時の流れは無情で残酷なものだ。


「あっ!すねちゃった?ごめんね?」


顔の目の前で手を合わせ、下をぺろりと出す。


確かに、”おじさん”という呼び名には、多少ばかり傷ついたが、私の事を名字で呼ばせてみるいい機会なのかもしれない。


「い~い?俺の名前は櫟 傑クヌギ スグルだっ!。おじさんじゃない!まだ、ギリアラサーでもない!そして、お前と歳も6しか違わないし…ブツブツ」


「急にどうしたの?知ってるよ?おじさんの名前なんて」


彼女は首を傾げ、『何、当然な事を』という顔でこちらをみてくる。


「じゃあおじさんって言うなよ!」


「なんで?おじさんはおじさんじゃん?」



もうそれで良い気がしてきた。


私は言い換えるのを諦め、今までのあだ名で良いと承諾した。












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パンは腐っていたら食べられない。 下手な小説家 @hetanasyousetuka

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