二十六
雪雲が裂けて陽が差し込んで斜めに影ができて、闇の中に曙光が広がっていくような……あの
地上にできた天国を後ろに残して、電車は山中へと走りだしていった。枯木の枝を縫って伸びていく光が、次々に影の形を変えていき、電車に映じていく
わたしの人生は、転落の一途を
強く生きようという心持ちが芽生えた。目前に
どうしようもない境遇を覆すなにかがあると信じて、生きていこう。そういう風に割り切ってしまえばいいのだ。もう一つの極を求めて……求め続けて生きていけばいい。二つ目の極は、思いがけないときに訪れるだろう。もがき苦しんで、生きているかぎり、なんらかの可能性が残されている。想像の範疇を絶したところに、きっと。
* * *
五月上旬――わたしはいま、まだ霧の中にいる。晴れる兆しの見えない冷たい霧の中に。前後不覚のまま
この回は――最終話は、六月中旬に発表されることになっている。しかしこれを書いているのは五月の上旬である。よって、同人誌即売会がどのような結果になったかというのは、記すことができない。だからといって、イベントの後に加筆修正しようとは思っていない。そうしてしまえば、この作品は、いつまでも終わらなくなるだろう。
この一篇は、反省と再出発を繰り返す作品である。そしてこの物語は「反省」から始まっている。だから終わりを迎えるにあたり、「再出発」の情景を描きたいと考えた。わたしが生きているかぎり、本作を書き続けることは可能だ。だけれど、いつかは閉じるべきだろう。最後に〈了〉を打たなければならない。有限な小説でありたいから。
現在、新しい長篇小説を執筆しているところである。それは、この長篇が完結した後に連載される。もしこのまま予定通りに進むのならば、この作とは違い、ポップでエンターテイメントに振りきった一作が、秋くらいまで続くことになるだろう。そして『もう一つの極を求めて』は、次々と発表されていく拙作の中に埋もれてしまうかもしれない。しかしこの一篇は、わたしにとって特別な作であるといっていい。
* * *
昨日、鹿野から連絡があった。彼女は、わたしの小説を読んでくれるだけでなく、厳しい批評を与えてくれる。そうしたところが、わたしが彼女と親交を結んでいる理由である。
《いつになったら、及第点をあげられる小説を書くのだろうね。努力が足りていないんじゃないかな。まあ、精々、がんばりたまえ。期待はしておく》
この容赦のない批評家に、及第点をいただけるように、さっそく、新しい小説を書くつもりでいる。
〈了〉
もう一つの極を求めて 紫鳥コウ @Smilitary
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