二十五
実家の最寄り駅に着く前に、電車が止まってしまった。二つ前のU駅に停車したまま、動く気配がなくなった。四十分近くの行路の中で乗客は、増えることも減ることもなく、T駅で乗車した人々が、そのままボックス席に座り、バッグを抱えて眠ったり、スマホを操作したりしていた。プラットホームの
わたしはというと、パニックを起こしかねないほどの緊張と不安に
わたしが最初にパニックを起こしたのは、小学一年生のときだった。給食の時間のとき、なんの前ぶれもなく過呼吸になってしまった。その場ですぐ収まったものの、その夜から、自分の呼吸のリズムが気になって仕方がなくなり、もしかしたら、このまま死ぬこともあるのではないかという、猛烈な不安を感じはじめた。それからというもの、ちょっとした「異変」に敏感に反応するようになった。豪雨になったり、大風が吹いたり、そうした「悪天候」はもちろん、教科書に記載されている、ちょっとした記述にも反応してしまうようになった。
すると、泣きわめいてあちこち走り回ったり、うずくまったりするようになり、それを見た同級生たちから
わたしはいままで、たくさんの私小説を書いてきた。だけど、この頃のことを一篇にしたいと思ったことはない。冷静でいられないのだ。怒りがふつふつと
幸いにも頓服は効きはじめて、副作用として眠気が訪れてきた。暖房のなかうつらうつらしているのは、心から安心できる一時だった。紆余曲折の果てに、この薬を処方してもらえるようになり、少なからず私生活が安定しはじめた。授業中に退室することも減ったし、修学旅行は断念せざるを得なかったが、県を
いまは他にも、抗うつ剤、精神安定剤、漢方なども飲んでいる。一日十錠を越える薬を服用することにも、もう慣れてしまった。
そうだ。いつか、わたしに似たような境遇の主人公が、
眠りに落ちそうになるなかで、どういう小説にするとよいだろうかなどと、あれこれ思索をめぐらせてみた。そうすると、不思議と、緊張や不安が解けていってしまった。外はまだ大吹雪であるということが、窓がガタガタ鳴る音で分かりきっているというのに。
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