人類が宇宙居住地で暮らすようになった遙か先の未来のお話。
スクール高等部に通う「僕」は、ある十二月の夜、絵を描くために上がった屋上で一人の少女と出会います。
遺伝情報の交配による「生殖」が当たり前となり、「家族」という概念がなくなった世界。「僕」と「少女」が穏やかに深めていく関係は、友情とも恋ともどこか違う、けれど、邪魔をするのが憚られるような空気を感じさせます。
二人の会話の中には「死」というワードが度々登場しますが、そこに悲惨さや恐怖は滲んでおらず、ただ、儚くも潔い、凜とした美しさを幻覚しました。それこそ、夜空に舞い散る桜の花弁のような。
じっくりと物語に浸ったあと、最後に現れる一文に、一夜の夢を見たような心地になれる美しい物語でした。