病みと闇
徳田雄一
いじめっ子といじめられっ子
「よろしくねー!」
夢と希望と楽しさを求めて入学した小学1年生の少年たちは緊張しながらも仲良さげに日々を過ごしていく。そんな中で年齢を重ねていく事に出来上がる派閥と派閥から抹消された隅っこ組。
狙われるのは隅っこ組だった。
「おいお前いつも独りだな!」
「……いいじゃん」
「悪いなんて言ってねえよ。そういうとこじゃねえの」
「ごめん」
「ふん。というかお前その本貸せよ!」
無理やり読んでいた本を奪われる。取り返す素振りさえしなければ面白くないのか、本を投げつけてくる。
「いたっ」
「つまんねえ。お前」
「……」
「というかお前本の読み方雑すぎて、表紙のキャラ可哀想だろ!」
「どんな読み方でも本は本だし、僕は大事にしてるよ……」
「口答えかよ」
そこからイジメはヒートアップしていった。真面目なことをすれば真面目振るなと虐められる。中学に上がる頃には色々な派閥がまた出来上がる中で、隅っこは隅っこらしく隅っこたちと仲良くしていれば陽キャという存在がこちらの影を深くする。
そしてひとりが不登校になれば、狙いが変わり、その子も不登校に。そしてネットを見れば出回るのは【不登校は不真面目で情けない】という言葉。それをまた彼らを苦しめる。気づけばその子たちは自殺に踏み込む。
「我が校の生徒が亡くなりました」
校長の言葉に動揺する生徒たち。自分がいじめていたことを忘れるように。
☆☆☆
そして数年後また新たな生徒たちが入学すれば、またその学年でイジメが起こる。
「脱げよ」
「な、なんで」
「いいから脱げや」
気弱そうな少年を狙い、彼ら彼女らは容赦なくイジメをする。それも感情など無くして。
「ははは、こいつちっせえ!!」
「お前まじちいせえな。情けな」
「うぅ……」
「キモ、泣いてんだけど」
その光景を教師が見た瞬間注意はするものの、深くは立ち入らない。少年の力では抵抗する手段さえなく、大人にも頼れないほどに心はこわれていく。
中学生に上がれば周りは輝き出す。自分は虐められているのにも関わらず、虐めを行う人間たちはあたかも自分は何もしていないというように生きている。
精神科に通う少年をバカにするかのように、薬を奪い去る。
「やーいやーい!!」
「か、返してよ!」
「あ?」
少年の心は壊れる。
「高校の入学式明日だね。大丈夫?」
「……うん。中学なんとか生き残ったし」
イジメに何とか耐え抜いた少年は環境が変われば青年となり、何も起こらない。そう期待して入学するが、青年は少年に戻る。
一人きりの人間を馬鹿にする声が聴こえる。
「あいつ友達居ないんじゃね」
「ひとりぼっちキツ……」
「まぁ、俺らはカラオケ行こうぜ。陰口だせぇよ〜」
「なによー。ケイスケ歌下手なくせに〜」
「うるせえーよ!」
ガヤガヤ騒ぐ教室から逃げるように帰る毎日。影に潜む青年はいつの間にか家の隅っこにまで追いやられる。
「……高校どう?」
「楽しいわけないよ」
「そう。あんたの努力が足りないんじゃない?」
「うつ病になった原因知ってるのにそんなこと言うんだ」
青年は母に反抗をするようになり、些細な喧嘩でも一瞬で影が潜み、気が滅入ることを考える。
「もういい。ご飯いらない」
「あっそ。好きにすれば」
「母さんは誰の味方なんだよ」
「誰の味方でも無いけど?」
「嘘でも俺の味方くらい言って欲しかったわ。俺死ぬね。死んだ方が世のためでしょ」
「死ぬ死ぬ言っているうちは死なないのよ」
「あっそ。後悔するのお前だよ」
「親に向かってお前ってあんたねえ!!」
首元に包丁を突きつける。血が吹き出る。母はここで後悔をする。どれほどまでに追い込んでいたのかを再確認する。
「あたしが悪いの……?」
☆☆☆
世の中は残酷だ。何か一つあれば何か一つを失う。
イジメは無くならない。優しき人間が、優しき心を持つ者が本当の心を持たない者にやられる世界。
こんな世の中があってはたまらない。そう僕は思い、ふたりの友人を失った今、命を絶とうとマンションの屋上に立っていた。
警察が総動員の中、僕は叫んだ。
「誰も助けてくれねえのに、こんな時だけ動くのかよッ!!!」
「お、落ち着きなさい! マンションから飛び降りてしまえば君の家族や友達、教師の方みーんなが哀しむんだぞ!!」
「うるせえよ。そんなクソみてえな言葉を投げかけてくるなら、イジメ無くせよッ!!!」
「え?」
「警察がなんも知らねえで口挟むなよッ!!!」
「お、落ち着きなさい!」
「うるせえええ!!!」
飛び降りた先、フカフカのマットに飛び込む結果となり、結局死ねなかった。友の元へ行けなかった。いつも友人を助けず失うばかりの自分に失望して友の元へ行こうとしたのに阻まれる。
そしてその都度に恐怖が襲う。次は僕の番だって震える夜。学校に行こうとすると吐き気が襲う。だから死にたかったのに止められる。負の連鎖に思わず涙が止まらなかった。
そこから僕は家にひきこもった。
毎日のように叩かれる扉、学校へいけと脅される日々。騒音が聴こえないように自分の鼓膜を潰した。そして何も見たくないという心が動き、次に目を潰した。
そして最後にカッターで模索しながら自分の手首を切った。
「あああああっっっ!!」
「どうしたっ、母さんっ!!」
「ああ、私の息子がああ!!」
僕は死に際、天国に行く前に地縛霊のごとく、学校やいじめっ子がどうなったのか気になり、家に住み着いた。そしてニュースを見る。
ひとつの中学校で3人の生徒が3ヶ月も経たずに命を絶った事で教育委員会がようやく動き出し、イジメの発覚、それに伴いイジメを行った生徒たちの取り調べを行うことになったようだが、その数ヵ月後には何事もなかったかのように生徒たちは普通の生活を過ごすことになった。
これがこの国の腐った部分なんだと思い、死んでいるのにも関わらず悔しさという感情が湧き上がる。
だが、ふと母の話し声が聴こえる。
☆☆☆
「あなた方学校が助けてくれていれば私が私の息子を殺すことは無かったし、学校がちゃんとしていれば加害者出すこと無かったんじゃないのッ!!」
「わ、我々も精一杯行った結果です。加害者と言わないであげてください」
「加害者でしょうッッ!!!!」
「……すみません」
「謝るならちゃんと虐めた張本人たちを殺せよ。地獄に行かせろよッ!!!」
「い、命あるものですから簡単に殺せだなんて」
「命あるものを壊したお前らがそれを言うのか!!」
母は泣きじゃくり、父は大激怒。お前ら家族も俺を見捨てたのにね。なんて思いながら話を聞いていたが、母が最後にぼそっと呟く。
「私が、私がちゃんとしていれば良かったんでしょ」
「……」
「私が悪いんでしょ。そう言いたいのね。学校は」
「い、いえそうではなくて」
「ふふふ。本当に愛してたのはあの子なのにあの子を失った私たちは失うものなんてもうないわよ」
愛していたという言葉ひとつで、母が情けないからという理由で怒っていたのでは無いことが分かり、僕の身体はゆっくりと現世から消えて行った。
☆☆☆
イジメはしてはならない。来世生まれ変わったらイジメのない世界になっているように願い、今世を終えた。
病みと闇 徳田雄一 @kumosaki
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