第23話「霊力修行、その1」

第二十三話「霊力修行、その1」


「それじゃあ、早速始めようか。」


八重桜さんの言葉が静寂を破り、俺たちの間に緊張感が走る。

彼の瞳には決意の光が宿っていた。


「まずは、一つ目の修行。

霊力をやろうか。」


八重桜さんは両腕を机の上に置き、ゆっくりと話し始めた。


「霊力とはそもそもね、知ってるかもしれないけど。

私たち霊媒師の心の奥底に眠る魂の力を具現化したもの。

そして、それは霊媒師になくてはならない力。」


その言葉に、春奈は静かに頷き、答えた。


「存じております。」


八重桜さんは微笑みながら続けた。


「うん。

それで、霊力の修行で君たちにはここまで成長してほしいんだ。」


すると八重桜さんは天峰さんの方を向き、穏やかな口調で言った。


「ごめんけど…‟あれ”を持ってきて。」


天峰さんは頷き、俺たちの前から一旦姿を消した。

俺は疑問を抱きながらも、八重桜さんに尋ねた。


「あの~。

八重桜さん、天峰さんに何を頼んだのですか?」

「まあ、待っといて。」


八重桜さんは微笑みながら答えた。


数十分後、天峰さんが戻ってきた。

彼の左手には何やら真四角の物が握られていた。


「持ってきましたよ。」


天峰さんは笑顔で言った。


「ありがとう。

それを机の上に置いておいて。」


八重桜さんの指示に従い、天峰さんは持ってきた物を俺たちの目の前にそっと置いた。

俺たちはその謎めいた物体をじっくりと観察した。


それは、先ほど遠くから見たとおり、真四角の六面体で構成されていた。

全てが木材でできており、まるでルービックキューブの木製バージョンのようだった。


「八重桜さん。…これは、一体?」

天馬が唐突に質問を投げかけた。


「それはね、名付けるなら『キュビスムキューブ』っていう霊具だよ。」


「キュビスムキューブ?」

俺は八重桜さんの言葉を繰り返した。


「そう。

その霊具はね、霊力を使うにあたってとても重要なものなんだよ。」


「そうなんですか。…でも、どうやって使うんですか?」

俺の疑問に、八重桜さんは天馬に向かって言った。


「天馬君、ちょっとそれを持ってみて。」


「あ、はい。」


天馬はキュビスムキューブを手に取った。

しかし、何の変化も起こらなかった。


「何も起こりませんが?」

天馬が不思議そうに言うと、八重桜さんは微笑んで答えた。


「普通はね、ただこの霊具の面白いのが…。」


八重桜さんは今度は自分の手のひらにキューブを乗せた。

すると、次の瞬間、キューブの形が突然変わり始め、何かの形をかたどり出した。


「これは…俺たち?」

キューブがかたどった形は、現在の俺たちの姿だった。


「驚いたでしょ。

この霊具はね、現在持っている人の記憶を形としてかたどることができるんだよ。」


天馬は再びキューブを手に取り、改めて質問した。


「しかし、なぜ俺が持った時は何も起きなかったのですか?」

天馬の問いに、八重桜さんは優しく答えた。


「それはね、この霊具が強力な霊力にしか反応しないように作られているからなんだよ。」


「そうなんですか…。」


天馬は納得したように頷き、改めてキューブを見つめた。

すると、八重桜さんが優しく言った。


「まあ、今はできなくてもいいよ。

ただ、最終的な目標はそれを自在に扱えるようにすることだよ。」


「分かりました。」


天馬はキューブを八重桜さんに返した。

八重桜さんは天峰さんの方を向き、言葉を続けた。


「じゃあ、早速始めようか…。」


すると、八重桜さんは椅子から立ち上がり、玄関の方へ向かった。


「どこに行くんですか?」

俺はとっさに問いを投げかけた。

すると、天峰さんが静かに答えた。


「いいから、ついていくぞ。」


天峰さんも八重桜さんの後に続き、玄関の方へ向かった。

俺たちも何気なく後を追った。


その後、俺たちは近くの草木以外何もない開けた場所へと導かれた。


「八重桜さん、ここで一体何をするのですか?」

俺は唐突に質問を投げかけた。

八重桜さんはしゃがみ込み、何かを拾い始めた。

そして、すぐに立ち上がり、こちらに声を飛ばした。


「それじゃあ、早速。

霊力を使った一個目の修行を始めようか…。」


八重桜さんは天馬の方に声をかけた。


「ごめんけど、天馬君。

あそこの石の台に座ってもらっていいかな?」

八重桜さんが指さす方向には、地面から数十センチ高く、直径1メートルほどの石の台があった。


「分かりました。」


天馬は言われた通り石の台の上に座った。

八重桜さんは天馬に向かって言った。


「天馬君には、霊力だけを使って自分の身を守ってもらいたい。

今から、私が小石を一個投げるから、それが自分の体に当たる前に破壊してもらいたいんだ。」


「なるほど。」


天馬は頷いた。

八重桜さんは右手に持った小石を天に掲げ、それを天馬に向かって投げた。


石は真っ直ぐ天馬の方に向かって飛んでいく。

その速度は速かったが、天馬の運動能力なら簡単に目で捉えられそうな感じだった。


「よしっ!」

俺は思わず声を漏らした。

しかし、次の瞬間、俺の期待を裏切るかのように石はいっこうに壊れる気配を見せず、見事に天馬の腹部に当たった。


「うぐっ」

天馬は小さく声を漏らした。

八重桜さんは天馬に尋ねた。


「どうだった?」 天馬は無念そうな表情で答えた。


「正直に言いますと、速度は普通より少し速めでした。

ですが、簡単に避けられる感じでした。

霊力を流し込む余裕もありました。」


「だけど、無理だったね。…どうしてかな?」

八重桜さんは天馬に質問を浴びせた。


「的が…小さすぎるんです。

大きな石ならともかく、あのサイズの石では霊力を上手く当て、流し込むのは至難です。」


「そうだね。

でも、それがこの修行の狙いなんだよ。

小さな的を狙うことで、霊力の精度を高めるんだ。

…まあ、まだ一回目だから焦らず、少しずつ慣れていこう。」


すると、八重桜さんは天馬の元を離れ、今度は春奈の方に歩み寄った。


「じゃあ次は春奈ちゃんの番だね。」


「はい!」

春奈は元気よく返事をした。

そして、天馬と春奈は場所を交代した。


「それじゃあ、いくよ。

準備はいいかな?」

八重桜さんが春奈に尋ねると、春奈は力強く答えた。


「大丈夫です。」


そして、八重桜さんは、さっきと同じように小石を上に掲げ、それを春奈に向かって投げた。


その速度はさっきの天馬より少し速い程度だった。

しかし…。


「やあっ!」

春奈は見事にその小石を壊した。

俺は思わず声を漏らした。


「おおっ!」

八重桜さんはその様子を見て笑顔になった。


「さすがだよ、上手く霊力を使い霊力を流し込めたね。

それじゃあ、最後に健斗君。

やってみようか…。」


八重桜さんの言葉に、俺は大きく答えた。


「分かりました!」

八重桜さんは天馬と春奈のいる場所から離れ、俺の目の前に立った。


そして、先程同様に石を掲げた。

俺はその石に意識を集中させた。

すると、今度は石の速度が少し速くなったのを感じた。

しかし、先程の天馬の時と同様に目で捉えるのは容易だった。


「よしっ!」

俺は思わず声を漏らした。

だが次の瞬間、俺の期待を裏切るかのように石はいっこうに壊れる気配を見せず、見事に俺の腹部に当たった。


「うぐっ」

俺は天馬と同じ結果をたどってしまった。


「どうやら、一個目の修行で早くも合格したのは春奈ちゃんだけだったね。」


「くそ~!!」

俺は悔しげな声をあげた。

すると、八重桜さんは優しく言った。


「大丈夫。

君たちは今現段階のどのレベルにいるか早くも分かったんだ。

まだ時間がある、これからどんどんレベルを上げていけばいい。」


「はい。」


俺は頷き、八重桜さんはにっこり笑った。

そして、次に春奈の方を向いた。


「それじゃあ、春奈ちゃんは二個目の修行に入ってもらおうかな?そこからは天峰さんが教えるから、彼の指示に従ってくれ…。」


そう言って八重桜さんは春奈の指導を天峰さんに任せた。


「頑張ってきなよ。」


八重桜さんの言葉に、春奈は大きく答えた。


「はい!!」

「行くよ、春奈ちゃん。」


天峰さんの言葉に春奈は頷いた。

すると、俺は春奈に声をかけた。


「春奈…。くれぐれも、無理すんじゃないぞ。」


すると、春奈は言い返した。


「あんたに言われたくないわよ。」


その言葉に、俺と春奈は微笑んだ。


そして、春奈は天峰さんと共にどこかへ消えていった。

二人残された俺と天馬は八重桜さんの指導を受けることになった。


「それじゃあ、早速考えてみようか。

なんで、春奈ちゃんと君たち二人には違いが生まれてしまったのかな?」

八重桜さんが天馬と俺の方を向き、問いを投げかけた。

俺はすかさず答えた。


「それは、俺たちと春奈には集中力が強いか弱いかの違いです。」


すると、天馬も同意するように言った。


「俺もそう思います。」


しかし、八重桜さんは首を横に振り、静かに言った。


「確かにそれもあるかもしれない...でも、それだけじゃないんだよ。

君達と春奈ちゃんには根本的に違うところがあるんだよ。

それはね…。」


そして、はっきりと言った。


「霊力の流し込み方だよ。

春奈ちゃんを見ていたらね、彼女の周りには霊力が一切外へ漏れ出しておらず、標的に向かって一心に霊力を流し込んでいたんだよ。

だけど、君たちは最初からあふれ出ていて、そのせいで標的へ流し込む霊力が小さくなっているんだよ。」


「なるほど…。」


天馬は頷いた。

俺も、八重桜さんの言うことは的を射ていると思った。

確かに、春奈と俺たちでは霊力の流し方から違うのだろう…。


すると、八重桜さんは続けた。


「だから、まずは霊力を上手くコントロールする修行をするよ。」


「はい!!」

俺たちは声をあげて答えた。


そして、八重桜さんの指導の下。

俺達の過酷な強化トレーニングが開始された。


これから、俺たちはきっと、様々な困難に直面するだろう。


しかし、そのたびに立ち上がり、夢を追いかけるのだ。


俺たちの冒険は、これからだ!


・・・・・・


今回のイラストは、霊媒師が使う霊具の一つ『キュビスムキューブ』です。

https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16818093079502338427

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霊媒師にペットは必要不可欠!!!(現在更新しておりません!!) 大魔王 @zyoka

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