旅の女

菜月 夕

第1話

 私はこうしてぼうっと一人旅をしている。

 ふと思い立って田舎の駅に降り立ちのどかな田舎道を歩いてみる。

 こんな贅沢があっても良いだろう。

 実家の農業を継いでバブル前の拡大路線に乗って山林を拓いて耕地を広げた。

 そうしてなんとか生産力を上げた結果は生産量削減だった。

 耕地拡大の借金だけが膨らんでなんとか自転車操業で10年回したが、借りる時に奨励していた金融も今度は我々の様な弱者をふるい落としにかけてきた。

 あの手この手で生産力を上げるために働きづめだった。

 やっと離農して農地などを整理してなんとか借金のかたがついた。

 それからもバイトや転職した先で働いて家を安定させた。

 そしてその仕事も今年で退職した。

 そしてやっと暇が出来ると、長らく旅をしていなかったことに気が付いて思い立ったが吉日とこうして田舎の道を歩いている。

 妻も亡くなり、子供たちは独立している。

 一人旅に出るには十分な理由だ。

 こんな砂利道を歩いていると子供の頃を思い出す。

 自宅の辺りはアスファルトで覆われ。巨大なトラクターが走り回るようになったがここは何故か私の子供時代の原風景を思わせる。

 こうしてのんびり歩いていると道端の道祖神を見つけた。なんとなく祈りをささげて見た。

 背後に人の気配を感じて振り向くと髪の長い女性が立っていた。

「こんな田舎の道祖神が珍しいですか?」

 にこやかな微笑みが妻に似ていた。

 いつしか話し込み、自分の事や彼女の話に興じていた。


「おじいちゃん、また徘徊?探して回るのも負担になるし、やはり老人ホームに入れるしかないよ」

「でもいつもあそこに行くんだよね。そして私を見て死んだばあちゃんを思い出すんだよね。

 いつまでもおばあちゃんの事だけは忘れないなんて、何か素敵な気もする。

 もうちょっと私が診てもいいよ」


 そして私はまた新しい旅を始める。

 隣にはきっと妻が居てくれる。

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旅の女 菜月 夕 @kaicho_oba

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