偏光(へんこう)<乙>

めいき~

偏光


光が頬を撫で、早鐘がごとく蛍光色の茸に照らされて。


碓水(うすみず)が如く、葉脈が浮いて。



紫のリボンが、水辺に揺れ。


華を抱く、妖精達の眼は死にたえた。



頭に黒い影が揺れ、黄色と赤の薔薇の髪飾り。



妖精同士は、お互いの手に背中合わせで指を絡めて手を握り。


言葉の嘘は曼殊沙華、言刃に煌めく。



口元だけで微笑み、お互い背を預け。

絡めた指から血がこぼれ、顔色だけが変わりゆく。



悪意も背徳なんてそこには無く。


光だけが蝋燭みたいに揺れ、祈りは病に変わりゆく。



祈りさえ、そこには無くて。




空に囁くその声は、パイプオルガンの様な音を立て。


逃れられぬ、終わりが来ると。



森は、かがり火の様に燃え。



小さな綿帽子が、一瞬で炭に変わっていく。


顔を照らした、破滅が蛍光色の茸を灯りに変え。


それでも、口元だけで妖精は笑い続け。



まるで、メリーゴーランド。


煤けた黒い水仙のコサージュに、真実だけが背中に食い込む。



終わりと絶望が愛おしい、蝕む様が痛みさえ感じさせず。



白い炎に映る、酩酊の視界の様に。



明日が来ない様に、切ない顔で妖精は両手を光に伸ばし。



高く響く、甲高い悲鳴の様な歌声で愛しさを謡いあげ。



逆らえない、抗えない。妖精の歌声が、聴くもの達を燃やし逝く。



白い琴の椅子に腰かけ。



苦しむごとに笑みが零れ、怨嗟の声で満たされて。



凍てつく、恐怖がせり上がる度。妖精は、両手で恐怖する顔を優しく包む。



妖精が膝に置くそれは、勇敢な男の生首。


そっと、撫でながらその苦しむ様さえ愛おしい。



首だけで蘇生させては、その慟哭さえ恍惚となる。



肩から紅茶をこぼすティーポットの紅茶は、数多の血で彩られ紅く紅くカップを温めた。


妖精は、また何処かで詠う。


楽器に座り、首を抱き。



誰かの、部屋の窓を微笑みながら叩く。



夜が来るたび、雪が降る度。戦争の度に、死のある所に現れて。


病室で、助かりたいと願う家族の背にも。


彼女は気まぐれに、蝶の羽を揺らし。



彼女に、肩を叩かれたのなら死を迎えたものは楽には死ねない。

何処にも逝けず、惨たらしく惨めに苦しみながらのたうつ他にない。


長く長く、永劫のたうつ様を見るのが好きだから。


暗闇に、魚の卵の様に死んだ眼で。

夜が来る度、音もなくやってくる。



明日さえいらない人が居ても、永劫生かさず殺さず苦しめる。


残香さえ、刻む様に白紙のページを破り捨て。


彼女を飾る、宝石全てが夢や希望で出来ていて。



あらゆる命から、眩い光を取り上げる。



そっと、絵本を閉じる様に。


そっと、本棚に戻す様に。



溢れ、滲む。望むまま、今日も……。



彼女の楽園は、必ず背後。


大地にかえし、枝葉より見え。


取り上げた、光が彼女を照らし。


この世は、彼女達の遊園地。


昼も夜も、過去も未来も終らない。


冷たい雨の日も、冷たい血の雨さえ。


誰もに唄と共に降り注ぐ。

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