3 棒と縄
アンジュの指示通りに壁の鞄から取り出した物を梯子の上に並べていく。
そして目の前に並んだのは二つのアタッシュケース。一方は約四十センチ×二十五センチほどの大きさ。もう片方は二十×二十ほどの正方形のケース。大きい方は十キロはあろうかというほど重たい。まるで鉄塊でも持っているかのようだった。
指示通りまずは大きい方を開けると、そこには銀色に光る直方体の鉄塊が四つ(道理で重いわけだ)と、三十センチほどの長さの黒い円柱状の物体が収められていた。直径は三、四センチほどか。中央部は握りやすそうな細かいチェッカリングが施されている。所々銀色のパーツや部位があるせいかライトセーバーを彷彿とさせる。
『それがシルバーアーセナル。自在に形を形成できるナノマシン群だ。円柱状のものはコアグリップで、動力源と制御コンピュータが収まっている。アーセナルの名の通り、質量と君の筋力が許す限り自由自在な武器やツールを作ることが可能だ。君に用意した肉体にあらかじめ埋め込んでいる「ぉお勝手に」認証用ナノマシンを通じて、君の考えた形を出力することができる』
「剣とか盾とか、鎧とかも?」
『それからワイヤーや梯子とかね。ある程度型の決まった物ならコンピュータが補助して素早く形成できるし、ディテールまで細かく形成したいなら任意でフルスクラッチも可能だ。時間はかかるだろうけどね。複雑な構造物はエクソスーツやパワードスーツ、補助アームなんかも形成できるけど、流石にイチから作るのは難しいだろうから、そういったレベルのモデルデータは既にプリセットがある。その辺は端末で確認できるよ。作れる大きさには当然限界はあるけど、内部構造は自動で必要に応じた肉抜きを施してくれるから、よほど大きな物を作らない限りナノマシンのリソースに意識を回すことはないだろうね』
一間置き、アンジュは続ける。
『最後に大事なこと。ナノマシンは定期的に充電が必要で、コアグリップの先端に繋げることで充電できる。物理的に繋がっていればナノマシン経由で他のものにも給電されるから、例えばコード状のものが繋がっているだけでも動力切れの心配はしなくていいよ。動力を使うのは主に変形する時だから、形が固定されてる間に動力切れを起こしても砂みたいに形状を維持できなくなるとかは起きない。耐久度は下がるけどね』
試しに塊を一つ手に取りテスト。イメージを思い浮かべつつ、併せて手を動かす。左手に持った金属塊の真ん中が棒状に隆起していく。それを右手でつかみ、速度に合わせて引いていく。左手の金属塊と分離したころには、右手には一振りのダガーナイフが握られていた。銀一色でシンプルなガードのついた簡素なものだ。
「すげぇ錬成陣もなしにマジでイメージ通り」
試しにブレードの真ん中に
「うわ楽し、一生遊べるやん……」
『そろそろ次のガジェットの説明に移ってもいいかな。一旦置いてもう一つのケースを開けてくれるかい?』
「アッハイ」
ダガーナイフを金属塊に刺すように戻し、元の形になるよう念じる。あっという間にナイフは直方体へ沈んでいった。ケースに戻してもう一つのケースを開ける。
そこには十~十五センチ四方の(またもや)銀色の六角形があった。小さめな正方形の画面や物理ボタンが中央に配置されており、黒いバンパーや各所の凹凸もあるせいか、昔の液晶玩具を思い起こさせる。
『機械みたいな見た目だけど、それは一応容器でもある。通称【アーマースキンデバイス】。中にはシルバーアーセナルとは異なる別のナノマシンが入っている。
「防弾用? アルテリアスには銃があるのか」
『うん。君もよく知ってる、火薬で弾丸を飛ばすタイプがね。真ん中の電源ボタンを押せば起動するよ。アーマースキンデバイスは君の中にあるナノマシンから得た生体データをもとに、中のナノマシンが全身の肌の表面に薄くフィルム状に展開する。見た目もほぼ透明、動きも妨げない程度に柔軟性はあるけど、強い衝撃に対してはダイラタンシーのような振る舞いを見せて瞬間的に硬化、おまけに衝撃の軽減を行って着用者を守る仕組みだ』
「すげー……」
『ただ代わりに、遅い物体には反応しないからそこは注意だ。例えばゆっくりナイフを刺し込んだり、刃を強く押し当てられれば、アーマースキンじゃ防げない。そういった人力による武器はシルバーアーセナルで対処するといいよ』
「デューンのシールド思い出すな」
アーマースキンデバイスをケースから取り出し、しげしげと眺める。紐を通す穴やベルトループ用のフックがあることから、腰につけておくもののようだ。
『エネルギーバリアではないけど、機能としては似たような物かな。使う時は見ての通り腰のベルトになりつけておけばいい。起動したらアーマースキンは自動で君の肌へ向かい、全身を包み込む。とはいえ、何百発と一方的に受け続けたりすれば流石に機能を維持できなくなる。維持できるキャパシティーを超えるとアーマースキンはただのはがれやすい薄皮同然になるから注意してね。それに大砲レベルの大口径のものも受け止めきれないと思った方がいい。運良く貫通を防げても衝撃までは殺しきれずに、君が殺されるだろうね。あくまで拳銃弾やライフル弾を防ぐものと考えてくれ』
「いやいや、ライフル一発喰らっても無事でいられるだけ十分すげぇよ。大砲の前なんて出るわけないし」
『そしてついでに、これは半ばボクのためのものだけど』
突如耳元を後ろから通り過ぎる羽音。
「ァア
視界に入ったのは球状の物体。見せつけるようにゆっくりと旋回し、俺の目の前で
耳元を抑えながらその飛翔体を観察する。
白い球体の真ん中にはカメラらしきレンズ。左右は外装がスライドして開いており、そこからは羽らしきものが伸びて羽ばたいている。
『ボクの目となり耳となるドローンだ。周囲の偵察なんかは任せてね』
「耳元で羽音鳴るの心臓に悪い……それあんま俺の耳元で飛ばさんでね」
『留意しておくよ。あぁそれと、ボクの声はナノマシンで君の耳小骨を直接振動させて届けている。だから周りに聞かれることなく君に情報提供が可能だ』
「メタルギアの体内通信みたいなもんか……もう今更体のどこにナノマシンあっても驚かねーや」
『さ、ひとまず君に渡すガジェットと説明はこれで全部だ。少なくともこれだけあれば簡単には死ななさそうでしょ?』
「至れり尽くせりで助かるどころじゃないな……ありがたい」
シルバーアーセナルのコアグリップとアーマースキンデバイスを両手に取って改めて眺める。
これが俺の、所謂異世界転生した際にもらったチート
『さ、ナヅミ。これからどうするの?』
「これから……いやどこいきゃいいんだよ」
何故かツッコミ調になってしまった。
『まずはこの森を出ようか』
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