こまどり

@rabbit090

第1話

 「はっ。」

 ちょっとびっくりした、時計を見たらもう午後の4時を回っていた。

 最初16時っていう文字を見て、これ何って思った。時間すら認識できない程、私は眠りこけていた。

 

 「ちょっとー、寝過ぎじゃない?仕事ばっかりもいいけど、自分のこともしっかりやりなさい。」

 母が言うことは、全く真っ当だった。

 でも、ここ最近、仕事で特に疲れてるって訳じゃないのに、起きれない。

 したいことはあるのに(買い物とか、そう、この前仕事帰りに見たストールとか)、休みの日を無駄にしてしまう。結果、私は仕事だけの人間になってしまっていて、すごく、ダメな気がしている。

 「ごめん、顔洗ってくる。」

 一応しっかり寝たから、でも起きたくない。でも、顔だけは洗おう。最低限、人間のたしなみかなって思って。

 「ご飯は?もう夜よ?朝の分、食べてよ。」

 「分かった、ありがとう。」

 美貴みきはいつまで実家で暮らすの?って、彼氏に言われた。

 でも、私はここを出て行くつもりがない。

 だって、

 「ねえ、美貴。また来てるよ。」

 「…うん。」

 いつも、いつも。

 そう、私が大学生の頃だったと思う。たまたま電車で乗り合わせた男が(同じ年くらいかな)、私のことをつけるようになった。でも、鏡を見ても私はブスだし、ストーカーだとは思ったけど、何で?っていう思いの方が強かった。

 見た感じは普通で(いたって普通、普通の若い男の子)って感じなのもあって、私は、そして私の家族も、様子を見ようってことになった。

 けど、あれから5年は経つ。

 なぜ、彼はずっと、私を見ているのだろうか。

 「はあ…。」

 「もう、大丈夫?彼、何なのかしらね。でも美貴、やっぱり心配だから、しばらくはここにいてよ。」

 「うん…。」

 

 うん、だけど。

 私は早く、一人になりたかった。

 元々、一人が大好きだった。

 彼氏だって、いるけれど好きじゃない。私は、他人が嫌いだった。不躾に何かを評価するように、私のこと、そう、あの人もそうだ。

 「ブスっ。」

 「…は?」

 毎日のように、小学生の頃私のことをブスだブスだと言ってくる同級生がいた。その子は、女の子をからかって喜ぶようなありがちな人だったけれど、私は父に、一度、不細工だと言われたことがあって、深く傷ついた。

 小学生ながら、私は不細工なのだろうかと心から悩んだ。でも、鏡を見ても結論は出なかったし、だから、もう考えないようにしていた。

 窓の外をちらりと見る。

 ストーカーはいなくなったようだ。

 ほっと胸をなでおろし、私は家を出た。

 そうだ、今日の大半の時間は潰してしまったけれど、街に行こう。それで、欲しい物を買うのだ。

 仕事を始めて数年、大事なことに気付いたのだ。

 最初は忙しすぎて、趣味とか全部捨ててしまっていたけれど、そのせいで心がよどんでしまい、毎日が辛くて辛くてたまらなかった。

 だから、仕事をしながらも、自分を殺さない、自分のしたいことをしている、という状態が最高なのだと、気付いた。

 だからちょっと辛くても、私はこうやって外へ出ている。

 「ヒタヒタヒタ…。」

 足音がする。

 私は少しだけ歩を早める。

 すると、

 「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタ…。」

 足音も、2倍になる。

 「はは。」

 私は小さく声を漏らす。

 本当はね、分かってるの。

 「君は私に手を出せない。私のこと、憎いんでしょ?」

 「………。」

 何も答えない、彼は、答えることができない。

 「馬鹿ね、私は悪魔なんだから。何しても、無駄。」

 私をつけているストーカーは、私を憎んでいる、それも、殺したい程に。


 「おはよう。」

 「…おはよう。」

 私は、戸惑った。何でこんなに爽やかな男の子が、私に話しかけてくるのだろう、って。でも、

 「美貴のこと、好きだって。」

 友人のサキもそう言っていたし、浮かれてしまった。

 確かに、高校生になって化粧を始めて、ちょっときれいになれたかもって思ったし、だから、

 「付き合おうよ。」

 告白は、私からだった。

 相手はちょっと、はにかんでそれを承諾した。

 私は、そのはにかみに微かな違和感を覚えながら、でも気にしなかった。

 なのに、違ったの。

 その人は、私のことを、サキと一緒になってからかうために、仕組んでいた。その人は、サキの彼氏だった。

 私は憤ったけれど、どうすればいいのか分からなかった。

 だから、サキと、その人に手を引かれ、後者の裏に連れていかれた時には絶望した。

 なぜ、こんなこと。

 でも、その人は死んだ。

 そして、サキは黙った。

 私は、多分私が殺したのかな、って、記憶だけがあいまいになっていた。


 「君のこと、恨んでる。」

 「でも、君もでしょ?私のこと、恨んでる?」

 私は、彼に問いかけた。

 けど、彼は何もせず、私を見ていた。

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