終
マーシス十一世はそれから五十年ほどを生きた。
〈盟主〉〈竜を従えし王〉〈焼滅の王〉〈抵抗の王〉など様々な呼ばれ方をしたが、彼はどう呼ばれても気にせず、生涯を母国の発展のために捧げた。
自分はただの王だ。他国からの賓客にそう笑って応じる王のそばには、常に青い目の副王がいたのは有名な話である。
王の晩年は穏やかなもので、副王の子に王位を譲った後は竜とともにスーハに隠棲し、静かに暮らしていたという。
スーハ近辺はよい猟場であり狩猟を勧める人々も多かったのだが、弓の名手として知られていた王は〈竜人戦争〉以降、一度も弓をとることはなかった。
この王の死については不思議な話が伝わっている。
先王危篤の報を受けたマーシス十二世とその宰相ソレイル・フォウがスーハに駆けつけたとき、十一世の姿はスーハの屋敷のどこにもなかったという。
あったのは書面が一枚のみ。
副王サーフィルの自筆で、自身の持つ権限のすべてを王に返還するというものだった。
その副王――十一世の竜の姿もどこにもなく、十二世は生前に渡されていた王の髪と竜の角の断片を棺に入れ、弔いとしたという。
王と竜になにがあったのか。
数十年の奉仕の対価として、狂った竜が王を食らったのだという者がいれば、王を死から救うため、竜は王を連れて異界へ行ったという者もいるし、王の死に狂乱した竜が王の遺体とともに湖へと身を投げたのだという者さえいる。
それに対してマーシス十二世は否定も肯定もしなかった。
二人について十二世はこう答えている。
「父様たちか? ――あの二人は自由になった」
十一世の廟は、今もその家族とともにある。
ドラゴンテイル・2~〝竜使い〟と狂気の竜 四號伊織 @shigou_iori
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