今どき親の障害で婚約解消されました。

@marimon25

第1話 今どき婚約破棄されました

「真里、君との結婚は破棄させてもらおう!」


親族が集まっている場所で、婚約者の丈二は声高に言った


突然のことに真里は狼狽えた

「え……丈二……どうして…?」


丈二はフンとせせら笑いしながら

「調べさせてもらったよ。君の親は聾唖者なんだってね!ああ、嫌だ。義父母がおしつんぼなんて、恥ずかしい。世間様に顔向けできない。悪いがこの結婚はなかったことにしてもらいたい。」

いつのまにか丈二の横には見慣れない顔の女性が並んでいた。


「…このお方はどなた?」

真里は震える声で尋ねた。


「フン!芹香だよ。俺は芹香と結婚することにした。」

芹香と呼ばれた女性は、うっとりしながら丈二の顔を見つめている。私と違って派手めのキツイメイクをし、身体の線がはっきりわかるニットのミニワンピースを着ていた。


「確かに両親のことを伝えておかなかった私が悪いのでしょう。親は私のことを心配して、ひっそりと身を引きました。これからは会わない方がよかろう、と今は行方もわかりません。ですが、親のことを悪く言うのは我慢なりません。こっちからお断りさせていただきます。」


真里はふう、と息を整え、「では失礼させていただきます。」と背中を向けて玄関先へ急いだ。



…いけない、もうすぐ涙が出てしまう。早く、早く、早く、この最悪なおうちを出なければ…


思えば、職場で真里に一目惚れした丈二からの猛烈なアタックで成り立った婚約だった。落ち着いたら両親のことを話そうと思いつつも、丈二の浮浪者や障害者に向ける目が冷たく感じ、なかなか言えないで今日まで来てしまった。デートで彼らの姿を見かけるたびに「フン、ろくに働きもしない奴らが…社会のクズだな。」と丈二が憎々しく吐き出すたびに、真里はとうとう言い出せずにいたのだった。


真里の親は聾者である。聞こえないが聾者の言語である手話を用い、温かく真里のことを育ててくれた。父は野菜を作り、母は機織りをし、ギリギリではあったが家族3人で生活が出来るだけの収入はあった。そして売りに行くのは、いつも真里がそばにいた。日本語がわからない親の足元を見て安く買い叩く業者がいたのだ。真里は小さいながらも対等に商売が出来るよう両方の通訳をこなした。親はまだ小さい真里に通訳をさせる負担を杞憂していたが、むしろ真里が進んで同行したのだ。何よりいつも忙しくしている親と一緒にいたかったからでもあったが。ろう者、聞こえない人は「ながら作業」ができない。集中を欠けると事故が起きやすくなるためだ。集中している間は手話での会話が出来ない。そんな経緯もあって、通訳に同行するのは真里にとって家族と一緒に話せるチャンスでもあったのだ。親がはいつも「すまない」と申し訳なさそうにしていたが、真里な気にならなかった。収入が得られた日は、決まって町外れの寂れた食堂で、ラーメンを食べて帰るのが唯一のご馳走であった。真里は手話で優しく語りかける親が大好きだった。そんな親が真里の結婚を気にして、畑を売り払いどこか遠くへ払い引越ししてしまったのだ。戸籍を見ればどこにいるかわかるかもしれないが、親の気持ちを汲んで真里はあえて取り寄せなかった。

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