……これが〈竜人戦争〉のはじまりだった。

 〈盟王〉は幾度となく兵を出したにもかかわらず、一度も勝利することはなかった。

 戦争の決着まで要した期間は七年。国の規模なら比べものにならないナクルという小国が七年も持ちこたえた理由は、天が与えた防壁ともいうべき山脈のおかげもあるが、最大の要因はその軍勢だった。

 〈盟王〉の軍がナクル国境にたどりついたとき、彼らの前に立ちふさがったのは青い、五百年は生きていそうな巨大な竜。

 青い竜が生きた砦となりもっとも攻撃力のある防壁となっていたころ、若い王と〈竜の友〉のもとには次々と見知らぬ竜がやってきて王の前に卵を置いていった。

 その卵から生まれたものは、すべて人の形をしていた。竜は親と同じ外見だとはかぎらないが、ここまで違うことはない。それが竜たちの意志によるものだったのは明らかだった。

 竜の強さをもって卵より孵った人。彼らは竜人と呼ばれ、一人の近衛騎士のもとに集まり、ナクルの護りとなり〈盟王〉への刃となった。

 〈お召し〉の場から、どうして竜はゴーチェを守ると決めたのか。だいたいの意見は一致している。〈盟王〉の前でかの者は竜を呼ばなかった。ぎりぎりまで竜を使わず友であろうとする姿に竜たちが応えたのだと。

 鳶色の髪の将に率いられた竜人兵は、恐ろしく強かった。膂力がまず桁違いであり、甲冑いらずの硬い肌を持ち、武器とわずかな水のみを携えての強行軍をなんなくこなし、戦闘となれば命なく退がることがない。

 そんな竜人の軍を中心としたナクルに、多くの国がつきだした。属国たちの連合軍が、ハビ=リョウの都を陥落させたのはナクルの王が二十になった年のこと。

 その場にゴーチェがいたという話はないが、彼女の育てた竜の姿がナクルの陣でしばしば見られたということである。


 〈竜の友〉は孤独な生き物だ。その孤独より生まれた友誼を破ろうとすればどうなるか、竜を侮ればどうなるか──かの遺跡、朽都ハビ=リョウの残骸がすべてを物語っている。


 最後にもう一つの余談を伝えよう。

 ハビ=リョウ陥落の際、〈盟王〉の前に立ったナクルの若い騎士の言葉だ。彼は竜人とともに戦えるほど強く、とびきり美しい青い瞳の持ち主だったという。

 地にひざをついて己を見上げる〈盟王〉に彼はこう言った。


「相変わらずまずい」


 それを聞いた〈盟王〉がどのような顔をしたかは、残念ながら伝わっていない。


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ドラゴンテイル・1~〈竜の友〉と小さな卵 四號伊織 @shigou_iori

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