終末の花向け

なりた供物

第1話

「まもなく、着陸を開始します。目標物、太陽系第3惑星・チキュウ。着陸危険度☆4の惑星です。単身での着陸は推奨しません。」

「そんなん、わかってるよ!それでも、この星に来たのにはある程度の理由があるんだ。邪魔をしないでくれ。」

「失礼しました。ですが、そう言われるのであれば、より一層着陸は推奨しません。私もこのタブレット端末の身体を失ってしまえば、生物でいう"死んだ"と同然です。一旦近くの惑星に着陸してから、燃料や部品のメンテナンスを…」

「うるさい!もう中間圏まで来てんだよ!!つべこべ言わずに着陸体制整えないと死ぬぞ!」

「相変わらず、我儘で聞かん坊ですね。わかりましたよ。私だって任務はきっちり遂行します。」


「たとえ、これが片道切符だとしても。」


「くっ!思ったより重力がきつい惑星だ!でもこの程度、どうって事ないね!!」

「コウ様、これ以上は私の実力では制御できません!レバーをしっかり制御してくださいね!!」

「えっ!!これ自動運転だぞ!!」

「なんて事してくれたんですか!!予算の使い方を間違えすぎです!!」

「す、すまん…しかし、パラシュートのタイミングだけは干渉できる…そうなれば…」


「そうなれば、もう開き直って死ぬ気で降りてやらぁ!!!」

「わ、私の命を何だと思っているんですか!ああ!やっぱり止めておけば良かった!」

「お前だって、別世界に興味があるとかないとか俺の事が心配だとか、なんだかんだ理由つけてついてきただろう!!このロケットが片道切符な事だって知ってたし、誰かに言って止めてもらう機会はいくらでもあっただろう!!」


「これで爆発しても、笑い飛ばしてくれよ!俺は死ぬ気じゃねぇけど、死ぬ前提で奇跡を信じてここまで来れたんだよ!!」


ウー ウー 機体に異常が発生しました。機体に異常が発生しました。


「何を今更!!機体に異常が発生するのは当たり前だろ!安全装置とかいらねぇって言ったのに、つけたのはどこの誰なんだよ!」

「ここの私です!」

「バカヤロー!どこに予算使ってんだよ!うるさくて気が散るわ!お前もやっぱり本質は俺とおんなじで聞かん坊だな!」

「うるさいですね!この下手くそパイロット!着陸できなきゃ地獄で永遠と呪い続けますよ!」

「わかったよ、わかった!とりあえず黙ってくれ!俺が一生に一度できるかできないかくらいの神テクニックを見せてやるからよぉ、これで着陸に成功したら…」


「もう二度と、自分が地獄に行くなんて考えるんじゃねぇよ!」


ウー!!ウー!!キケン!!キケン!!

「どこの何が危険なのか!3文字以内で簡潔に答えろよ!クソ安全装置が!」

「スベテ!」

「そうか!よ〜くわかったわ!だが恐らくその声量じゃ、感嘆符が付いて一文字オーバーだな!!」


ドドドドドドド


「さあ!どんな星だかいまいち覚えてねぇけど、俺の第二の故郷に今から帰るぞ!」

「ギ、ギャー!!」

キケン!!!キケン!!!!!!

「頼むぞぉ…!!開け、パラシュート!!!」

「ボォォッ…」

「コウ様、パラシュート燃え尽きました。」

「バ、」


「バカヤロオオオオオオ!!!」

「諦めんな、クソパイロットオオオオオオ!!!」


ジャバアァァン!!

「キケン…キケン…キケ…」


「此処が来世か〜」

「あ、あのー、、コウ様。全然死んでません。湖に着陸しましたが、思いの外重力が軽かったです。私も防水機能付きなので普通に生き…」

「えっ、あ、案外重力軽いじゃねぇか!安全装置さんよぉ!」

「…」

「急に黙りやがったな…覚えてろ…お前の来世を三葉虫にするために、今から冒険してやる…」

「コウ様、落ち着いてください。三葉虫はとっくのとうに滅んでます。あと重力軽い事は私が説明しました。パクるのやめてください。"ヒト"としてダメだと思います。」

「今はパクツイじゃなくて正確にはパクポスだからな!!」

「な、何の話ですか…」


ここが、チキュウか…


「…待て。こんな荒廃してたっけか。」

「知りませんよ。わたしは。」

「おいおい!!もしかしてさっきの墜落でこの辺一帯滅ぼしちゃったんじゃ…!」

「そんなわけないでしょう。私の画面にもヒビどころか傷1つ入ってません。現にコウ様も無傷じゃないですか。この星は私達の星より火山活動が活発という報告書が出てます。その程度で滅びる文明じゃないでしょう。」

「そうか…まあ、少し座って休憩しよう。そうすれば、俺の記憶も、もう少しだけ蘇るか。」

「記憶?」

「おい!お前高性能AIのくせに忘れたのか…」

「いえ、あの日コウ様が将来の夢を熱弁していた事は覚えているのですが、あなたが何故か充電を3日もしなかった影響で、何も覚えてません。」

「アホか!ちゃんと充電切れそうなら教えろお前!充電切れそうなのを確認しろ俺!どっちもバカ!」

「勝手にバカにして勝手に納得しないでください!」


「まあいいや、今の充電は99%だから大丈夫だろ?歩きながら色々話してやるよ。」

「ええ。お願いします。コウ様が、どうしてこの星に執着しているか、私も興味があるので。」

「ああ。あれは、何年前、何年前だっけなぁ…最初からだったかなぁ、まあ良いや、2年前と仮定して話そう…」


「俺はその時14だった。今が17だから…」

「3年前じゃないですか!」

「うるさい!!俺が話している時は黙れ!周りが見たら恥ずかしいだろ!」

「ここに誰がいるんですか!」

「大人の事情だよ!とりあえずフェードアウトしなさい!」

「あなた17って言ったでしょう!!」

「黙…まあいいや、全部スルーさせていただくぞ。」


「あれは、5年前のことだった…」

「…」


「俺はその時14だった。今が………19だ!!今日だけ19だ。明日からは17に戻るからな。安心しろ。」

「………」

「俺はあの時、いつも通り、学校の帰りに縁石を踏みながら歩いていた。ただその日は課題を出せなかったので、日が沈んでいる中、おのれの勘のみで縁石を踏んでいた。その結果、ものの見事に踏み外し、頭を打って意識を失った。」


「…その時だった。おぼろげながら浮かんできたんだ。」

「……何がですか?」

「前世の記憶というか、明らかに自分のモノではない景色が見えたんだ。どでかい建物の最上階で、大量にいる人々を見下ろしていた。そして彼は…」


飛び降りた。自ら死を選んだんだ。


「…いわゆる"自殺"というやつですか。」

「ああ…俺には、その行為が理解できなかった。何でこの人間は、自ら命を絶ってしまったんだ、チキュウにおける、最も賢い生き物、それが"人間"だと聞いていた。だから衝撃的だったんだ。」

「確かに、コウ様をはじめとした私達の惑星に住む主要生物"ヒト"は、遺伝子的にも人間とほぼ一致していると聞いています。」


「…しかし、それはコウ様の妄想では?コウ様が突然異文化、それもチキュウに興味を示したのは不思議でしたが、元々異文化に興味があったのが、突然目覚めただけだと思ってました。まあ、熱量はスゴい物でしたが…」

「少なくともそれは違うな。俺はあれから、縁石で転んで意識を失うたびに、あの人間の記憶の断片を見るようになった。」

「あの…」

「何だ?お前、あんまり話しかけるなと…」

「何度縁石を踏み外せば気が済むんですか!!学習能力が欠如しているとしか思えない!!死ぬ前に異文化に目覚めて本当に良かったですよ!!

「そうか!!ありがとう!!!」

「何がですか!?!?」


「まあいい、俺が懲りずに縁石に乗り続ける、転び続けるのはそんなに重要じゃねぇ。そんな事よりも大事なのは、そいつが"死"を選ぶ前の、過去の記憶まで蘇ってきた事なんだ。しかし、そいつはずっと笑顔だったんだ。小?学校に入学する時、中?学校に入学する時、謎の棒を持ちながら1人で歌を歌っていた時、友達と一緒に夜出かけている時、ずっと"笑顔"の記憶しか蘇らない。そこにネガティブが全然無いんだよ。それなのに?何故彼は自殺を選んだのか?」


「動機は薄いし決して純粋な物でもねぇ。だけど何故か、俺が命をかけてでも知りたい事なんだよ。俺たちの文明の力じゃ片道切符なのもわかっていた。だけれど、もう"チキュウ"に興味が傾いていたんだ。今の星に残す物もなかった。だから嘘をついてここまで来たんだ。お前が協力すると聞いた時は意外だったがな。」

「いえ、わたしはコウ様専属のAIですから。コウ様に名付けてもらった"ミライ"という名前を持っています。まあ、ほとんど名前で呼んで頂けないのが、少し残念ではありますが…まあ、それは置いといて、コウ様の未来のためなら、どこにでも着いて行きますよ。それがたとえこんな星だとしても…」

「失礼な!俺が見たのはこんな星じゃなかったんだぞ!!俺が見たのは……」


「俺が見たのは…もっと美しい惑星だったはずなんだ…何かが確実におかしい。」


「まあ、此処にとどまっていても何の意味も無いでしょう。それにあなたも私も、燃料切れで死んでしまいます。」

「ああ〜それなら大丈夫だぞ!何故ならバッテリーと乾パンならここに沢山…」

「あっ!ちょっと今は開けちゃ…」


ドバアアアアア!!!


「……………」

「……………」

「いや……あの……ほら………」

「…なんで湖に着陸したのに安易に倉庫開けたんですか……防水機能のあるバッテリー、ケチって買わなかったんですから……」

「ほら……乾パンってそのまま食べるとマズイじゃん……」


「バカマスター!!!!!!」

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