第9話 私が一人飯に行く理由③ 宴もたけなわになってきた時、己の社会性のなさを痛感する
無口、人見知り、自分に自信がない、他人に興味がない。そんな特性がマイナスの方向へいかんなく発揮されるのが大人数での飲み会だ。
まず、そういう人間が社会でどうなるかと言うと、単純に「あまり人が寄ってこない」。
無口な人間の心理というのは様々だと思うが、私の場合は「自分に自信がなく、相手に気を遣いすぎる」という一点に尽きる。自分に自信がないから、自分の話をしても相手は面白くないだろうと思うし、相手を傷つけてしまうかもしれない話題を限りなく避けようと思うから薄っぺらな話題しか提供できないし、さらには人見知りゆえに人間関係も狭く、よって皆の気を引けるような話題も少なくなり、という抜け出せない負のループに陥りアリ地獄でアップアップしているのが私という人間だ。
たとえ繰り出す話題が薄っぺらかったとしても、家に犬猫の1匹や2匹飼っていれば同様に犬猫を愛する人々と「動物最高」という話で盛り上がることもできるだろうし、彼氏や夫、子供達と暮らしていれば、彼らに対する愚痴を面白おかしく語ることもできるだろうが、あいにく本当に一人で暮らしているので自分の失敗談しか話すことができない。
だが、波風立たない毎日、通い慣れた通勤路、住み慣れた家屋での一人暮らしとなってくると、人に話せるような失敗などそうそうない。逆にあったら常に心身ともに生傷の絶えない毎日ということになり、日々のルーティンに「通院」が加わることになってしまう。それはそれで中高年の方々との話題に事欠かないかもしれないが、健康を犠牲にしているという点でよろしくはないだろう。そのほかに唯一熱く語れることがあるとすれば、同じ町に住んでいる年老いた親の車の免許返納時期についてだろうか。
また、話すことが苦手ならば「話を聞く力」を磨けば良いと社会性のある方々は簡単に思ってくれていることと存じ上げるが、皆さんすでにお気付きだろう。世の中には私の様になぜか人が近寄ってこない虫コナーズタイプの無口と、相手の心をつかんで離さないゴキブリホイホイタイプの無口に大別されるということを。ゴキブリホイホイタイプは確実に「話を聞く力」が優れているが、虫コナーズタイプはその逆だ。
虫コナーズタイプもこれまた様々なタイプがいるが、私の場合は圧倒的他人への興味のなさから生まれる、私への不信感があると思う。最初はふんふんと話を聞いてくれているように思えるが、そのうち「どうやらこいつは自分に興味があって話を聞いているんじゃない、この頷きも機械的に行われているのでは?」という疑念を相手に抱かせてしまう。
さらに悪いことに私などは、自分の話をしても相手は面白くないだろうなと思っているくせに、興が乗り出すと「話を聞く」意識などどこへやらといった状態に突入し、ねじ巻き式おもちゃが延々と同じビートを刻むかのように口から面白くもない話を吐き出し続ける。そして30分後、相手に苦痛の時間を与えてしまったと早々に後悔し自己嫌悪に陥り、再度口を閉ざすといった具合だ。
そしてこれは私という人間の根幹にも関わってくる部分となるのだが、全てをひっくるめて人間としての魅力がないという恐ろしい事実を突きつけられるのが多くの虫コナーズタイプに共通するところだ。
以上を踏まえた上で私が飲み会でどうなるかということを予想して欲しい。
大方の期待を裏切ってしまい誠に申し訳ないが、意外にも皆と和やかに談笑しながら美味しい酒と料理を楽しんでいる。なめないで頂きたい、さすがの私も2時間くらいは社会人の皮をかぶっていられる。注釈をつけるとしたら、「皆が決められた席にお座りしている最初の内はまだ良い」ということだ。
最初の内は同じテーブルの仲間で和気あいあいとやっていても、そのような場では宴もたけなわになってくると、各々が仲の良い人がいる席や盛り上がっているテーブルへ散らばり始めるという魔のフリータイムに突入する。
この時の私の心境は、「おい、ちょっと待ってくれ」だ。
あなた方が気分の赴くままに席を移動した結果、私のような人間がどうなるのか、あなた方は想像したことがあるのだろうか。というか、確実に知っているよな?
6人掛けテーブルに私一人という状態になるのだ。
彼らにしてみたら、「あなたも好きな席に行ったらいい」ということなのだろうが、私のような自分に自信のない人間は、「私なんかに来られてもその席の人々は迷惑じゃないだろうか」と思って動けなくなるのだから、置いていくのはナシにしようぜ。そこんとこよろしくしたい。目を離した隙に羽ばたいて行ってしまう奴らを椅子に縛り付けておけたらどんなに良いだろう。
もし動けなくなることを知っていてあえて置いていっているのなら、「よしわかった、認めよう。そうだよな、私といてもつまらないよな? 私に大いなる問題があるよな?」と言う他ないが、私が意を決して他の席に行った挙句、「ほら、私が来てやったぞ、楽しく飲もうじゃないの」とほざかない謙虚さも考慮して私という人間をジャッジして欲しい。
大人数の飲み会が始まる時、私はいつも同じテーブルを囲んだ人々にこう思う。
「おめえの席はここ! 宴が終わるまで動くんじゃない!!」
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私は一人が好きだ。私は一人でいることに抵抗がない。
だがしかし、大人数の飲み会や食事会で人々が自然と自分の居場所を作っていくのに対し、「テーブルに一人ポツンの私」という状態は、さすがに己の社会性のなさと人を引き付ける魅力のなさを骨の髄まで痛感することになり、来世は群れを作らず生きていくオランウータンに生まれ変わりたいと願わずにいられない。今世はもうあきらめた。
生まれてこの方、「今日の飲み会大成功」と思った試しがない。そんな私だから一人飯や一人呑みに行くのだ。
でも、別に悪くない コバヤシ @kbys4681
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