第10話  迎え

「お前……馴染んでるなぁ……この島の生活に」


「アウグステ!!迎えに来てくれたのか!?」


俺の目の前に現れたのは、嵐の日の夜に、あの刀を俺のところに投げ入れたアウグステだった。


「まぁな……それにムネヒラの回収もあったからな。北へ向かう海流の上に人外の力を見つけたのが二年前だ。そして島が幾つかあることが確認されたんだ」


ニッコリと笑うアウグステ。

あれ?大人っぽくなってるぞ?


「ここは、人外の地だ。私でも結界を破るのに二年かかってる。ペール、何日ここで過ごした?」


「まだ三日だよ」


「そうか……実は三年は過ぎてるんだ。テレジア号は無事に北に着いたし、帰港もした。この航海でやっと、島の結界を破れてお前を見つけ出せたんだ。どちらにしても、来るのが遅くなって悪かった」


アウグステは、長い銀髪を風で抑えようともせずに俺に頭を下げてきた。


「良いよ、忘れずに迎えに来てくれたんだから……刀を投げ込んだのは、何故なんだ?」


「あの時は、傾いた船を元に戻すのに必死で、とてもお前の事まで助けることは無理だった。ムネヒラは、妖刀だが長く神殿で清められていた刀だ。守りのために……な……結局、お前は助かってるじゃないか。迎え来たが、本当に帰りたいか……?」


料理を作って、楽しんでる俺を見て、島に馴染んでると思ったのだろう。

ところが、アウグステの言葉の終わらぬうちに、


『ぺえるは、何処にも行かない!の血を貰って、ここにずっといるの!』


すみれちゃんがいつの間にか後ろにいた。

すごい怖い顔をして、アウグステを見ていた。


「なるほど……北の魔族が大陸を去った後に、この島に辿り着いて進化した訳ね。他にも島はあったのに妖刀ムネヒラが、ここを選んでしまった訳が分かったよ」


アウグステは、何か納得していた。

……? 待て? ムネヒラがどうとか?

それを聞くと、アウグステが大きく息をついて言った。


妖刀ムネヒラは、魔族の血を望んでるんだよ。だから、引き寄せるようにこの島に来たんだ」


すみれちゃんが魔族!? 俺は信じられなかった。


「まだ幼いからな。他の者は、ムネヒラを持ったお前には、近づくことさえ出来なかったはずだ」


その通りだ。


続けてアウグステは言う。


「で? この島に残るのか? 帰るのか?」


俺は即答できなかった。

帰りたい!

でも、この食材のいっぱいの島で暮らすのも……


「一つ言っておく。お前を探すのは今回きりだ」


俺の中の迷いに、止めを刺す様にアウグステは言ってきた。


俺は言いかけて口を噤んだ。アウグステと共に浮かび上がって、海の上だ。すみれちゃんの声が小さくなっていく……


――気が付けば、俺は船の中で眠らされていた。

獣人島での、楽しかった日々の夢を見ていた――


▲▽▲



俺は、逃げ出したかったのだろうか……妙に楽しんでる自分もいた。

茶色のモフモフ耳と尻尾が可愛かった菫ちゃんのも、もう会えないんだぁ……。


船首では、銀髪を背に流したアウグステが、風を操っていた。

三年の月日が流れているとの事なので、彼女の魔法の腕も上がってるようだ。


俺は、一大決心をした。妖刀ムネヒラがあれば魔族は俺に何も出来ないんだ。

そう思った俺は、アウグステが、一番風に集中する凪の時間を狙って、妖刀ムネヒラを盗み出し、海に飛び込んだ。


さぁ、ムネヒラ!! オレを獣人たちの住む島に連れて行け!!

俺は、また菫ちゃんのために、新しい料理を考えるぞ!!




(完)





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料理人見習いのペール君は獣人島から逃げ出したい~逃げたいのに、モフモフ耳とシッポの女の子に胃袋を捕まれてしまったぁ~ 月杜円香 @erisax

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