終話 王達の邂逅、そして悲願
両軍は衝突した。しかし、十字軍の勢いが異様であった。最初に突撃した四百騎のみでおそらく数千近い兵が戦意を喪失し、敗走した。
その激戦の最中で両王は一瞬眼が合う。
王は各々想った。
♰
感謝しよう。私は汝のお陰で王へと、今まさに真の王となれたのだ。私は病の身でありながらこれほどの王と相まみえた運命に感謝しよう。
☾
感謝しよう。人生で初めて敗北を知った。敗北を知ったからこそ私はかつての大預言者ムハンマドの様に苦難を味わい、真の王となれたのだ。そなたと相まみえたことに感謝しよう。
♰ ☾
その後、ボードゥアンは王都に凱旋し、英雄王の旗を掲げた。偉大なる王に対する勝利。奇跡の勝利。王都は歓喜に包まれた。
サラディンは敗走した後、すぐさま軍を立て直し、その後ボードゥアンと一進一退の戦いを繰り広げた。
しかし、ボードゥアンは日に日に衰弱していった。サラディンと時として和平を結び、イスラム教徒の巡礼を許可したボードゥアンは聡明なる王として両世界に知られた。無敗の英雄王を初めて破った聡明なる病王として。病は彼を過酷に蝕んでいった。そして王としての責務も彼には重く圧し掛かった。
英雄王との邂逅から僅か七年の歳月で彼は天へと帰った。
今日、彼はエルサレム王国に最大の安定期をもたらした賢君としても知られている。
ボードゥアンが没したと聴いた時、大英雄サラディンは涙を流した。「何が彼らをあそこまで勇猛果敢に戦わせたのか」と言葉を発し、この病王のことを後世に語ろうと決心した。
そして、病王ボードゥアンと英雄王サラディンの遺した銀より純粋で黄金より価値ある精神はやがて後の無血十字軍へと連綿と繋がっていくのである。
僅か十年の理想。されど、かの王達が終に夢視た争いなき僅かな理想へと。
―了―
モンジザール 偉大なる病王と無敗の英雄王の邂逅 佐藤子冬 @satou-sitou
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