第11話 魔法の奥深さ


「ッ‼」


 間一髪のところで火玉ファイアーボールを避ける。


(早すぎるだろ……)


 いや、俺の認識が甘かった。合図があった時には、すでに模擬戦が開始しているんだ。イリナが待ってくれるわけではない。


 目の前で起きているのは、真剣勝負。


 程よい間合いを取りながら、試しに水玉エラ・スゲルを放つが、案の定イリナにかわされてしまう。


(まあ、こんなもんだよな)


 そう思っていると、イリナが話しかけてくる。


「ダイラルってさっきまで魔法を使えなかったんだよね?」

「そうだね」

「そう。流石ね」


(流石?)


 俺は首を傾げながらイリナのことを見つめる。すると、真剣な表情をしながら火玉ファイアーボールを放ってくる。


「いくらダイラルがすごくたって、今の私は負けない」


 俺はすぐさま水玉エラ・スゲルを放って相殺する。その時、軽い蒸気が発生した。


(火と水が交わって蒸発したってことか)


 その後も、お互いが魔法を放っては打ち消される攻防を繰り広げる。


(このままじゃ負けるのは俺だ)


 この勝負は、確実にイリナが有利である。俺は今日魔法を使い始めたのに対し、イリナは前々から魔法を使うことが出来る。


 この状況で実力差が現れるのは、経験。はっきり言って、その点においては数段も格差がある。


(考えろ)


 この状況で勝つには、頭を使うしかない。


 そこで、俺はレオンを真似て、威力を落とした水玉エラ・スゲルを連続でイリナに放つ。


 だが、イリナも分かっていたかのように火玉ファイアーボールを同じ数だけ放ってきて、相殺される。


(レオンが行った戦術は使えないか……)


 分かっていた。イリナであれば、一度見た戦術の打開策は考えているに決まっている。


(何をすればいい?)


 俺が考えていると、ニヤッと笑いながら問いかけてくる。


「これで終わり?」

「さあね」


 口ではこう言うが、何も策が思い浮かばない。


「そう。じゃあ勝たせてもらうね」


 イリナは俺に向かい、火の応用魔法である火炎玉エル・ブレイムを放ってきた。


(あんなのありかよ‼)


 全速力でこの場から移動して、火炎玉エル・ブレイムを避ける。だけど、それを読んでいたかのように火玉ファイアーボールを放ってきて、肩へぶつかる。


(いってぇ……)


 次、魔法を食らったら戦闘不能って判断をされて負ける。


(それだけは嫌だ)


 この国の王子であり、魔法にあこがれを持っている俺が、負けるのなんて嫌だ。


 俺は無意識に極限に小さくした水玉エラ・スゲルを無数に放つ。


(あ、これだ)


 そこでやっとひらめいた。そう思った瞬間、イリナは周りを見ながら言う。


「悪あがきはよくないよ」

「いや、悪あがきじゃないさ」


 空気中にある水玉エラ・スゲルを爆発させると、水蒸気が発生した。


(ニーナに言われた言葉を思い出せ)


 魔法を使う前、ニーナは俺に魔力操作がたけていると言っていた。なら、できるはずだ。


 水蒸気になった半分の水分でイリナの死角に水玉エラ・スゲルを作り出す。


 その時、イリナは火玉ファイアーボールを放ってくる。


(今だ‼)


 もう半分の水蒸気で水玉エラ・スゲルを作り出し、相殺させる。その時、軽い爆発が起きる。


(水蒸気爆発)


 高温の物質が水とぶつかることで起こる現象。


 制度の高い水でなければできない現象ではあるが、ニーナが言った魔力操作にたけているという言葉を信じた。


 目の前で起きている現象に驚いているイリナめがけて、先ほど作り出した水玉エラ・スゲルを放つ。


(これで勝ちだ‼)


 そう思った時、イリナは無意識に体を傾けて避けた。


「は⁉」


 確実に当たるタイミングであった。それなのになんで避けられたんだ。


「私は負けない‼」


 イリナは叫びながら火炎玉エル・ブレイムを放ってくる。


(どうする、どうすればいいんだ‼)


 その時、恩人と出会ったことを思い出す。


(魔法には様々な未来がある……)


「乗‼」


 俺は爆発が起きた蒸気を密集させて水玉エラ・スゲルを放つ。


 そして、火炎玉エル・ブレイムとぶつけると、熱水玉エラ・ホロイを生み出した。


 その瞬間、あたり一帯が熱くなり始める。


 そして、俺がイリナに放とうとした時、魔法が打ち消された。


 すると、目の前には一人の女性が立っていた。



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悪役貴族に転生したので、推しキャラを正ヒロインに導こうと思います あれ? ヒロインたちに好かれているのは気のせいだろうか? 煙雨 @dai-612

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