姉の裸ー1
姉は、お風呂上がりに平気で裸で出てくる。
私の彼氏の浩輔くんがいたとしてもだ。
そんな姉の後ろ姿に、浩輔くんも目を奪われていたりする。
姉の背中の木のタトゥーのせいだ。
私でも目を奪われる。
初めて見た時は、その現実味のない美しさに、私は動けなかった。
姉の背中の7割ほどを占める大きな木は、
一筋の光が差し込み、明るく照らされた様な差し色が入っているせいか、
重く感じない。
そして、3羽のフィンチが、その枝にとまっている。
そのフィンチが、雰囲気を柔らかくしているのかもしれない。
そして、大きく張った根は、お尻の上部と一部は裏腿にまで続く。
姉の背中は、ある意味アートだ。
ロンドンのタトゥーアーティストのリドルは、今でも人気があり、お金を出せば彫って貰えるわけではないらしい。
リドルは、タトゥーを引き受ける前に、必ず依頼者と話をするらしい。
何を彫って欲しいのか、
それが、その人に見合った物なのか、
そして、人柄までも見抜いてしまう。
それでも、一番のポイントは、イマジネーションが沸くかどうかだ。
姉は、たった10分で勝ち取った。
いや!
リドルが見抜いたのかもしれない。
しかも、姉は愛されてもいた。
興味を持たれていたと言う方が正しいのかもしれない。
22歳の時に、親ほど歳の離れた彼に。
リドルが彫った大作の中から選りすぐられた作品は、彼のタトゥースタジオの壁にほぼ等身大ポスターとして飾られている。
姉のバックヌードも、そこに飾られている。
アートとして。
そして、その隣には偶然にも、姉のパートナーのルーが飾られている。
「最初、知らなかったんだよ。
隣のタトゥーがルーだって」
「いつわかったの?」
「ルーと出会った時は最悪で、お互いなんて言うか恋敵っていうかそんな関係だったから、私なんてルーに冷たい態度取ってたの」
「三角関係?」
「まあ、そんな風に思っていたのは、私とルーだけだったんだけど。
当のリドルは、俺はパートナーに向いてないとか言って、色んな人と関係持ってたし」
「でも、好きだったんだ」
「今でも大好きで、尊敬もしている。
色々助けてももらったし」
「で、いつ分かったの?」
「ルーから、リドルが私たちの事クリチャーって呼んでるって言われた時に、何となくルーのシャツをめくったら、そこにあったの。
私の大好きなクロスのタトゥーが」
「出会うべくして出会った感じなんだね?」
「そうなのかなー」
リドルは、自分の作品には署名として、赤と黒の『Lives』というレタリングを入れている。
それは、レイちゃんのドラゴンのタトゥーと、ショウくんの背中の雄と雌のライオンのタトゥーにもある。
『Lives』とは、
Lifeの複数形で、生命、人生、本物とか生身とか、生きていると言う意味が込められている。
当時、傷つき、自分を追い込み、生に実感のなかった彼らに、
「生きろ!」という、リドルからのメッセージだったのかもしれない。
◇◇◇
このお話の詳細は、『ピアスとタトゥーと本棚〜カーリーof Scream of No Name』
に、その様子が描かれております。
合わせて読んでいただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16818023212402223344
パンクな姉と優等生な妹の噛み合わない夜(短編集)〜Scream of No Nameのスピンオフ かりんと @karinto0211
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