第三章「ヨビアイ」

第56話 SS後日談


 *さらに後日談*


◇◇◇◇◇


「んでんでんで〜〜、うちの次期主任は男ができましたと〜〜〜うひょおおっ、これは色気づいちゃってまぁ!!」

「ちょ、ちょっと、やめてよ純怜!」

「えぇ、栗花落さん彼氏できたんすかぁ!! 俺も好きだったのに〜〜!!」

「え、い、いや……逢坂くんも……すき!?」


 繁忙期も過ぎ去り、いつも通りの経理部の日常が戻ってきたある日の夜。

 明日から週末の休日、来週に控えたバレンタインデーなんて忘れ、色々あって行えなかった経理部プチ飲み会を開催していた。


「やっぱりねぇ~~。ウチは分かってたよ逢坂君!」

「えっ、いや、ちょなんでそんな話に⁉」

「いやぁ……まぁうすうすわかってましたけどね~~。どうせ、栗花落さんのことなら綺麗だし彼氏の一人や二人くらいいてもおかしくないかなぁとは思っていたんですけどね」

「二人はいないわよ! ていうかなんでいきなりそんな告白してきたのよ!」


 ただただ、忘年するために始めたはずの経理部デスク三人組で開かれたはずの飲み会も突如として投げかけられた告白に私は一人だけ動揺を隠せなかった。


「いやぁ、さすがのことっちも分からないかなぁ~~逢坂君猛烈アピールしてたしねぇ」

「してたっすよぉ~~そりゃもうガツガツと」

「ガツガツってねぇ」

「ことっちは今の彼氏さんにガツガツされてるんだもんね~~」

「え、されてるんすか⁉」

「されてないわよ!」


 どうして、そこで私の顔を覗いてくるんだこの二人は。

 三人で経理部の仕事を受け持ってからそれなりに日が立つけどここまでノリノリなところは見たことがない。


「いやぁ、そんなこと言ってもしてることしてるんじゃないんですか~~?」

「してないって、いい加減にしないとセクハラで訴えるわよ」

「……何でもないです。あ、今日のお会計は俺が持ちましょうか⁉」

「うひょー、怖い。これは一種パワハラ?」

「……な、なんなのよ二人は」


 馬鹿にし始めたのはどっちからかと言ってやりたい。

 そして、逢坂くんを擁護しているのか援護しているのか、私をバカにしたいだけなんだろうけど純玲はどっち側なんだか。


 お酒が入ってるから仕方がないと言われたらそこまでなんだけど、ちょっと酔いすぎじゃないかとさえ思える。


 何せ、逢坂くんなんてお酒全然飲めないはずで飲み会断る系の子だったのに今日は普通に着ちゃったし。


 告白。


 あ、あぁ……もしかしたら、それがしたかったからなんだろうか。

 別に悪いことをしているわけではないんだけど、その重みが分かるとしてはちょっと胸が痛い。


「……というか、そういうの大切にしなくていいの?」


 少しだけお冷を飲んで落ち着いた私は、頬を赤らめてぼーっとグラスを眺める彼にそう尋ねてみた。


「うぇ~~、栗花落さんが聞くんすか?」

「え、いやまぁ……そう、だけど」


 すると、彼は唸りながら視線を合わせないように至極真っ当な意見を返してきた。

 確かに、思いっきり渦中の私が言っていい事なのか。今しがた気づいた。


「……やっぱり、なんでもない。ごめんね」

「残酷っすねぇ」

「まぁ、ね」

「うぅ~~俺も彼女ほしいっす}


 さっきまでノリノリだった逢坂くんがふと酔いから覚めたのか若干下げ気味だった空気に変わる。


「ちょっとちょっと今度は二人して重いムードにしないでよぉ~~うち帰ったら、二次会するんだからね」


 そんな中、どっちの見方をするでもないお調子者の腐れ縁はどういう意図で放った言葉なのかも分からない台詞で間に割り込んだ。


「久遠さんとでしょ、この後の飲み会は。二次会って言わないわよそういうの」

「えっ、まさか三澄さんも彼氏が⁉」

「えぇ~~つれないなぁ、ま、これでももう二か月以上付き合ってるからね?」

「うっ……なんと、ここはリア充の巣窟でしたか」

「はっはっは~~迷い込んだわね子犬くん。うちらお姉さんが精神攻撃でボコボコにしてあげるわよ!」

「うるさいわよっ」


 ていうか、そんな意地の悪い精神攻撃なんかしない私は。

 仲間にするんじゃない。


「でも、さっき俺のこと振って精神攻撃したじゃないですか!」

「し、仕方ない、じゃない」


 と、そんな私の助け舟を借りず。

 またもやどっちの見方をするでもない人が一人増える。

 図星をつかれて、ちょっと痛い。


「……んま、逢坂くんには栗花落はちょっとだけ難しかしいかなぁ? 彼氏いなくても無理なんじゃない?」

「うぐっ……ひどぉ! 栗花落さん、そんなことないっすよね?」


 そして、わけも分からない質問が回ってこられ、唐突だったがために私は正直な気持ちが顔で出てしまっていた。


「……あははは」

「だ、ダメっすか」


 心底残念がる表情を浮かべられ、私は焦る。

 すると、彼は彼でテーブルにへたり込んで叫んだ。


「うわぁぁ~~彼女ほしい、俺だって恋人ほしいんすよ~~‼」

「ま、まぁ、大丈夫よきっと」

「……さぁね~~」




 こうして。

 結局のところ。

 後輩の男性社員をいじめる二人のお姉さん社員の構図ができてしまったわけで。



 歩み出した一歩と知らなかった衝撃の告白を添えて、私たちの新しい一年は始まっていく。

 




◇◇◇◇◇



「先輩、今日泊ってもいいですか?」

「おう。待ってるぞ」


 

そして、進んだ歩みは今日もまた厚みを増していく。

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