第47話
◇◇◇◇
藻岩えりか。
藻岩家の長女であり、俺ーー藻岩哉の姉。
年齢は二十八歳であり、俺よりも二年先にアラサー年代に突入したことでずっと彼氏募集中でもあるのだが、勿論、今は独り身で独身だ。
実家からの話では最近はマッチングアプリにも手を出したのだが、プリクラで詐欺したおかげで初日に「ごめんなさい」と言われたらしい。
とはいえ、あくまでシスコンではないと先に言っておくが。
そんな姉さんはこの藻岩家では一番顔がいい人でもある。俺の姉とは言えないほどに顔が整っていて、小学生のころから男子とよく遊び、中学一年の頃には彼氏までできたとか。
それでいて面倒見もよく、自慢のお姉さんだったのだがそれが通用したのはあくまでも中学生のころまでだった。
どうして、顔も可愛く、整っているのに未だ独身と言う理由はそこにある。
色々と説明すると長くなるかもしれないから、たった一言で言ってしまえば姉さんは――幼すぎるのだ。
二十八なのに幼いとは、と聞きたくもなると思う。
ただ、意味としては間違ってはいない。
身長は146センチ、体重は??キロ(噂では大きな米袋二袋半ほどらしい)。
顔は中学の頃からほとんど変わっていない、所謂—―童顔と呼ばれるやつだ。
そのせいもあり、高校に上がってからは身長でいじめられ、彼氏もできず。
大学に入っても変わらず仕舞い。
どんなサークルにいてもその幼さからマスコット扱いされるためで、極めつけには好きになった男からは「ロリコンって言われたくないし」と一蹴。
酒を買うときには必ずと中学生と間違えられるし、さらには身分証を見せても信じてもらえず親に電話までされる始末。
その流れは社会人になってからも変わらずで、就活時の面接では何を言っても信じてもらえず、会社員になってからもその扱いは変わらず。
後輩を持って、怒っても全く怖くないからと笑われたり、マスコット扱い。
最近は役職も持てるようになったとか聞いてはいたけど、おそらくはその威厳はないに等しいというのだけは想像しやすい。
とにかく、俺の姉は――姉らしからず。
一言で言ってしまえば合法ロリと呼ばれる部類らしい。
いや、実の姉が合法ロリとか弟からしてはきつい事この上ないんだけどな。
◇◇◇◇
「ね、姉さん。それでこんな日にどうしたのさ?」
『ん、あぁいやね、哉くんが心配で』
「心配ってねぇ、俺もう二十六だし。ていうかその呼び方やめてよ、恥ずかしい」
何より、隣で栗花落が聞いてるし。
一応、耳打ちでスピーカーにはしていないから聞こえてはいないと思うけど。
それでも少し恥ずかしい。
『どうしてよ。一歳の頃からずっとその呼び方で呼んでるじゃん。それに、可愛くない?』
俺が嫌がると姉さんは明らかにムスッとした。
電話先からでも口を結んで「ぷんぷん」と怒っているのが目に見えるように鼻息を噴き出している。
そして、一つ言い忘れていたこともあった。
俺の姉は”ド”が付くほどのブラコンでもある。
友達からは二歳しか離れていない姉とはあまり仲良くならないのが普通らしいが、如何せん俺も小さい頃は姉を頼りにしていた。
その見た目はともなく、勉強はできるし、面倒見もいいし、何せ優しい。
とは言ってなんだけど、今もそれが続いちゃってるのはちょっと嫌なところで。
それに最近は俺と絡んでるから彼女ができないんじゃないかと思ってきてもいるわけだ。
『えぇ~~いいじゃん。哉くんの意地悪』
何せ、ガチガチの姉さん口調なのに、一目見たら年下だからこの人。
「だから君付けは……もうわかったよ。あきらめる」
『んふふっ! それでこそ私の哉くん! さっすがだねぇ』
「はいはい。それで、姉さんは何のために電話してきたの?」
えっへんと言わんばかりに、ない胸を張る姿が脳裏に浮かびつつ。
栗花落との二人っきりの時間を邪魔されたことを思い出し、尋ねてみた。
『ん、あぁそう言えばそうだったわね。今年はこっち帰ってこないの?』
「今年はそうだね、帰らないかな」
『ふぅん。ちょっと悲しい、せっかく帰ってきたのに』
「毎年帰ってるし、姉さんは割とウチに来るでしょ」
『そうだっけ?』
とぼけられても困る。
一年に一回、正月に実家に帰る俺とは違い、姉さんは半年に一度必ず俺の家にやってくるのだ。
日本中のブラコンが見習うべきブラコンっぷりである。
「そうだし。それにそんな理由で電話してきたの?」
『あぁ、いや。聞いただけ。でも寂しいのはほんとかなぁ。ずっとタロウと遊ぶだけだし』
「あぁ、タロウか。元気そう?」
『うん。お姉ちゃんも元気よ』
「言わずとも知ってるよ」
ちなみにタロウと言うのは実家で飼っているシベリアンハスキーだ。
北海道にはもってこいの寒さに強い犬種で、人懐っこくて可愛いし、いつか栗花落にも見せてあげたい。
センスのない名前はもちろん姉さんが付けたものだな。
『んま、それはそうとね。いくらとズワイガニが余ったから食べてくれないかなって』
「そんな大層な……ていうか、いつからウチはそこまでリッチな家柄になったんだ? それなら俺の大学院の奨学金返すの手伝ってほしいわ」
『違う違う。たまたまなのっ。お母さんがネットの懸賞応募したら当たっちゃってね。三キロのいくらと、五キロのズワイガニが来てもう食べきれないのよ』
なんてリッチだ。
というか、懸賞なんて当たるもんなんだな。
「ほぉ。でももらえるなら欲しいな。せっかくだし」
『それは良かった。あ、でも結構多いけど食べれる?』
「あぁ。大丈夫だぞ」
勿論、栗花落と一緒に食べるし問題はない。
しかし、そんなことを姉さんが知っているわけもなく尋ねてくる。
『ほんとに? 腐るくらいならお姉ちゃんたちで食べるし……一人でしょ、今?』
そして飛び出した質問。
俺は少しドキッとしつつ。愛華さんへ言った宣言を思い出し、口に出した。
「いや、その……なんて言うかさ」
口ごもりつつ、そんな俺を見つめる栗花落と目が合い握りしめた拳の爪が皮膚に食い込んだ。
「っうん。後輩の女の子がいるんだよ」
『後輩の、女の子?』
すると、姉さんは繰り返し口に出して固まった。
「ほら、高校の時に言ってはいたじゃん? あってはないと思うけど――――って、姉さん?」
『お、女、女、女、女……あの哉くんに女⁉』
「え、ちょっと?」
『どうして、お姉ちゃんじゃダメなの? どうして先に行くの? お姉ちゃんこの歳になっても彼氏一人作れない雑魚な独身なのよ、もう結婚できなくて焦ってるのに哉くんはどうしてそんな遠くに行っちゃうのどうして?』
どうしてが多いし、ていうか怖いし!
どこぞのヤンデレ姉ちゃんか。
ていうか、彼氏は中学の時にできてるだろ。
なんていうツッコミはやめて、俺は冷静に答える。
「高校の時に付き合ってた子だよ、最近再会して仲良くなったの」
『え、えぇ、そんなこと聞いてないよお姉ちゃん』
本気で悲しんでいるんだろうけど、この歳になって姉さんに報告だなんてことしたくはない。
「当たり前だろ。まぁどうせ近々顔合わせするし……」
と口に出していると再び栗花落と目が合った。
「……?」
きょとんとした可愛らしいエメラルドブルーのその瞳を見つめ、思いついた俺は電話越しにどちらにも聞こえる声で呟いた。
「そうだ、せっかくだし話してみるか?」
「えっ⁉」
『え、いいの⁉ それじゃあお姉ちゃんが面接を……』
姉と同時、電話越しからの驚き声と隣に座る栗花落の驚いた声が重なった。
栗花落はプルプルプルと顔を横に振り、「無理です」と言わんばかりではあったが姉さんは乗り気な声でグイグイとくる。
「面接はやめて。怖がるから」
『っちぇ~~』
「よし、それじゃあ替わるぞ」
スマホを耳から離し、そして栗花落の手の方へ。
首を振りまくってはいたものの、強引に掴ませると彼女は受け取って恐る恐る耳に近づけた。
「は、はい。もしもし……替わりました。お、お義姉さん。栗花落ことりです」
こくりと頷きながら、とても心配そうに声を出す。
いつもよりもいくらか声が小さかったが、あの姉なら仕方もないかもしれない。
「は、はいっ……いや、私はそんな。これからって言うか。えへへ」
かと思えばすぐに順応して、笑顔を見せる。
「そう、ですね。ありがとうございます」
そして感謝。早いな。マジで。
「はいっ。替わりますね。あと、いっぱい食べさせていただきます」
そして、たった数十秒ほど話しただけで話し終えたのか、栗花落はスマホを差し出してきた。
「も、もういいのか?」
「はいっ。いい人ですね、今度お話したいです」
「そ、そうか」
そして受け取り、耳に近づける。
にしても、もう仲良くなったのは驚きだった。
「姉さん、どうだった?」
『いい子。結婚しなさい』
「っは、早いよ話が……でもまぁ、考えてはいるよ。ありがとな」
『うぅ、お姉ちゃん……哉くんがこんなにも成長するなんて。まぁ、とにかく幸せにしなさいよ! それじゃあ送っておく、じゃね!』
ブーブー。
そして電話が颯爽に切れる。
「早いな……栗花落、何を話したんだ?」
「それは内緒、です」
そして、何度目か。
俺はまたしても栗花落からの内緒を言い渡されたのであった。
あとがき
日本負けましたね。
辛いです。
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