第33話
◇◇◇
仕事納めの日。
忘年会を控えたこの日に向けて毎日のようにせっせと仕事をしていた私はついに体を壊してしまった。
無理をしすぎたようだ。
つい最近は色々と仕事があるのに定時で帰りすぎていたこともあり、いつも以上に仕事が進まず、そのために無理して夜通し作業を行っていたからか。
まったく、自分の体力の無さと年の功に少しだけ嫌気がさす。
ついに来年はもう二十六の歳だし……どうして人は歳を取るのか。
女性にとっては永遠の敵、年齢なんて。
「んもぉ、まったく無理するからでしょ?」
「だって……忘年会、行きたかったし。行かせたかったし」
「面倒見がいいのか悪いのか」
「誰が言ってるのよ」
「……さ、さて?」
と、都合の悪いことに対してはどこ吹く風かと目を逸らした純玲に肩を借りながら、私は忘年会の予約を取っていた道を引き返している。
本当に、誰のせいなんだか。
多少は、というよりはもっと褒めてくれてもいいじゃないか。
一応、純怜の仕事も結構手伝ったりしたんだし。
とは思いつつも、純玲も純玲で楽しみにしていたはずの忘年会から引き返しているのは少し悪い気持ちになる。
「はぁ……ごめんね、純玲」
「ん? いいのいいの。それにうちの男どもを家に連れていくわけにはいかないでしょ」
「ぅん」
確かにそれは嫌だ。
藻岩先輩ならまだしも、うちの子たちに勘違いされるのはあまり良くない。
「それに安心しなさい? サプライズゲストも呼んだからね」
「え、さ、ぷらいず?」
「えぇ。うちが家まで送ったらあとはその人に任せたから。忘年会行きたいし」
行くのか。
なんだか悪い気持ちになったのは損をした気分ね。
なんていう悪態をつきながらも途中でタクシーを拾ってそのまま家へ直行。
私がお金を出そうと財布を開くと、「つけ払いにしておくわね」と言われて何も言い返せず。
結局すべてとんとん拍子で進んでいき、そして部屋に入りベッドの上に寝かされる。
「一応、熱だけ測っておくわね」
「う、うん」
脇に体温計をさし、息のしづらい熱くなった体の呼吸を整える。
汗ばむ中、ピーピーと音がして、ディスプレイを眺めると温度は「37.8℃」と表示されていた。
「あら、微熱ね」
「変な病気とかではないと思う……少し、倒れただけだし」
「なら、安心。うちも気兼ねなく忘年会行けるし!」
「……っそ、そぅ」
私だって行きたいのに、わざと言ってるのかこの
まぁ、ここまで運んでくれたのはありがたいけど。
「いいわよ、行ってきなさい。私はここで一人で待ってるから」
「ぁーもう。拗ねないでよ。それにことっちには最高なゲストが来るってうちがさっき言ったでしょ?」
「誰よ、それ」
「言っちゃったら仕方ないじゃないの~~。だから内緒、多分もうそろそろ来ると思うわよ。ちょっと大げさに言っちゃったから物凄い形相で飛び込んでくるかも?」
「何よそれ」
だいたい、病人に飛び込んだら移っちゃうじゃないの。
という私の心配は何のその。なぜだか、せかすように立ち上がってぴょいっと手を横に振り、ウインクを送ってくる。
「まぁまぁ、楽しみにね。それじゃあ私行くから、んじゃ……」
なんてタイミングだった。
—―ピンポーン。
「おぉ、タイミングばっちり!」
「……っ」
純玲が立ち上がって捨て台詞を残した瞬間、インターホンが鳴った。
反応から見るに、どうやらそのスペシャルゲストのようだった。
「誰よぉ……」
「はいはい、すぐ来るから。交代したらうち行くから、よろしくね~~」
「……はぁ」
私の問いに答えず、そのままスキップで部屋を出ていく。少し待っていると遠くから声が聞こえてきた。
ゲストは一人、そして声の高さからして男。
この期に及んで男を呼んだのかな、それって結構ヤバいんじゃ。
そう言えば……私って、今の恰好何着ているんだっけ。
なんて考えている間に、寝室の扉がガチャリと開く。
「ぁっ」
「—―栗花落、大丈夫か‼‼」
そう、純玲の言う通り。
ものすごい形相のまま扉を開けて飛び込んできたスペシャルゲスト。
私の名前を苗字でかつ、そして呼び捨てで呼ぶのは今考えて見れば――この世界に一人しかいない。
懐かしいどころか、なんなら昨日の朝も出会った――想定外の男の人だった。
「……も、いわ……せんぱい?」
そういえば、そうだ。
私に対して、純玲が太鼓判を押して送り出してくる男なんて一人しかいない。
信用に足り、信頼をおける――そして、私を任せられる男の人。
そして、スペシャルな意味で……私の想い人。
藻岩哉先輩、その人だった。
「っだ、大丈夫か……栗花落ってあ」
飛び込んできたかと思えば先輩は入って数歩ほどで急に足を止めた。
と言うよりも足がぴたりと止まったようだった。
「あ、の……どうして先輩が……ど、どうか、しましたか?」
質問をする前に、途中で疑問を抱く動きを見せる彼。
聞くことを変えると、先輩はさっきまで汗だくで心配していた表情がみるみると青ざめていく。
そして、どこかほんのり頬を赤らめていく。
何か、私の顔にそんな変なものでついているのか。
しかし、先輩は青ざめた顔のまま、少しだけ視線を右往左往させて、そのまま目をキュッと閉じて背を向けた。
「っちょ、栗花落⁉」
「……せ、先輩、あのっ」
「栗花落……そ、その……恰好は、何か、服をっ」
服?
あぁ、そういえば服。何を着ていたんだっけ……私。
来たのが先輩で思考停止した頭を徐々に回転させていき、視線を先輩から私の胸元へ落としていく。
さっきまで着ていたのはいつものリクルートスーツ。
それで、さっき体温を測るときに純玲に色々と脱がされて。
ベッドから掛け布団を剥ぐように座っている私の恰好。
それを見た瞬間、驚愕した。
ぼーっとしていたはずの頭がギュンギュンと音を立てて冴えていく。
「っひゃ、ぁ、ぁ」
上はブラの透けるキャミソール。
下はいつもの黒の花柄のパンツ。
真冬のこの時期にそれだけ。
パジャマでもなんでもない、まさにはだけた――誘う格好。
それが今の私だった。
「ぁ、ぁ」
「つ、栗花落、俺は何も‼‼」
「っ―――――ぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
気が付けば、私は大きな悲鳴と共に枕やぬいぐるみを先輩の背中へ向かって放り投げていた。
あとがき
ラッキースケベぇ。
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