Layer10 クイズ
話題を変えるためだからといって急にクイズをしようなんて言われても誰も乗ってこないだろう。
そんな俺の思いとは裏腹に
「クイズ? やる! やる! なんだか面白そうだし」
姫石が乗ってきた。
「私もいいですよ。先輩がクイズを出すとか言い出すなんて、明日は雪ですね」
立花も乗ってきた。
料理の話の流れからよく急にクイズの話に頭を切り替えられるな。
俺と八雲にとってはラッキーなことだが、姫石と立花はもっと俺達の料理の能力について言及しなくてもいいのだろうか?
「クイズに正解したら何かご褒美とかないの?」
姫石が正解する気満々で褒美をねだった。
「そうだな……」
「私達が正解したら先輩は料理を練習するってことでいいですか?」
八雲がどんな褒美をあげようか考えていたところに、立花がすかさず八雲へ対してへのペナルティへとすり替えてきた。
やっぱり料理の話は全くもってすり替えられていなかったようだ。
「じゃ、玉宮も正解できなかったら料理の練習ってことでもちろんいいよね?」
「ああ、そうだな。もちろんよくない」
しれっと俺まで巻き込むな。
「立花後輩。正解したら報酬をあげるのはいいが、私がペナルティを受けるのはどうかと思うんだが?」
「そうですか。ならクイズはしないでさっきの話の続きでもしましょうか」
「わかった、わかった。その条件でいいから」
「もちろん玉宮もね」
だから。しれっと俺まで巻き込むな。
「……それでいいよ」
俺はしぶしぶ答えた。
さっきの話を続けられるより、正解すれば回避できるクイズの方がまだマシだろう。
「問題数は1問。解答回数は1回。それでいいな?」
八雲の提案に俺達は頷いた。
「では問題だ。人間と動物の違いは何だ?」
なるほど。
良い問題だな。(人間も動物だろ! という意見は受け付けません)
この問題なら的外れな解答をしないかぎりは不正解にはならないだろう。
逆に正解になる解答は数多く存在する。
その中から八雲が正解としている解答を当てるのは至難の業だ。
しかし、今回の目的はペナルティである料理の練習を回避することだ。
別に八雲が正解としている解答を当てることだけがペナルティを回避することができる手段というわけではない。
あえて正解と思われる解答が複数個ある問題を出題することで、俺がどの解答をしても八雲は俺を正解にすることができ、誰とも解答が被らないという条件を付ければ姫石達の解答は不正解にすることができる。
これなら俺も八雲もペナルティを回避することができる。
「人間と動物の違いなんてたくさんあるじゃん! もしかして正解になる答えが一つだけなんて言わないよね?」
「いや、一つだ」
「そしたらわかんないしー! どれも合ってそうなのにその中から一つしか正解じゃないなんて……わかるわけないじゃん!」
悪いな姫石。
この問題が出た時点で俺達の勝利は確定しているんだ。
恨むなら出題する権限を八雲に与えてしまったことを恨むんだな。
「大丈夫ですよ、姫石先輩。正解が全くわからないよりは、わかっている方がいいじゃないですか。正解する可能性だってあるんですから。それに、玉宮先輩だって私達と同じようにわからないんですから」
「そっか! それもそうだね、歩乃架ちゃん」
立花の言葉に姫石は自信を取り戻したようだ。
どうやらこの問題の仕組みについては二人とも気付いていない様子だ。
「八雲、解答は早い者勝ちで被りは無し。もし正解の解答がなかった場合は一番正解に近い解答をした者が正解するということでいいか?」
「それで問題ない。立花後輩、姫石華もそれでいいか?」
「それでいいと思います」
「あたしもそれでいいよ。早く言った方が有利ってことね」
姫石はこういう面では瞬発力もあり有利だ。
たまにブレーキが利かなくなる時もあるが……そういう時はいつも俺が止めている。
「じゃあ、わかった者から解答していってくれ」
そう八雲が言うと間髪を入れずに姫石が自信満々に答えた。
「人間は文字を使うところ!」
姫石が自信満々に言うだけかなり的を射た解答だな。
たしかに動物はコミュニケーションのようなものを行っていても、文字のように何かを媒介にしてコミュニケーションを行なったり、情報を形として残したりはしないからな。
姫石はすぐに答えることができたが、立花はなかなか答えようとしなかった。
「立花、俺が先輩だからって遠慮せずにわかったらすぐに答えていいんだからな」
「ありがとうございます。玉宮先輩こそ私に遠慮せずに答えちゃってください」
そう言った立花はなぜか少し余裕があるように見えた。
「実は結構悩んでいるから、立花の方が先に答えてくれないか?」
「わかりました。じゃあ、お先に答えちゃいますね。私は人間には感情があるところだと思います」
立花のこの解答も正解と言えるだろう。
動物にもある程度は感情があるが、人間のように複雑な感情は持ち合わせいていない。
二人とも解答したことだし、俺もそろそろ解答するか。
「う~ん、俺は計算ができること……人間は計算をしてあらゆることを予測、シミュレーションできるところかな」
もちろんこの解答も正解と言える。
要は的外れな解答でなければ何でもいいのだ。
「一番正解に近い解答をした者が正解でいいんだよな?」
「あぁ、それでいい」
八雲が確認を取ってきたので答えた。
「わかった。一番正解に近かったのは立花後輩だ」
これで俺達はペナルティを回避できた……
「……え?」
想定外の八雲の言葉に思わず俺は聞き返してしまった。
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