第2話 第1回 ノーベル文学賞発表

 ダイナマイトの発明者であるアルフレッド・ノーベルは、すべての人が幸せで、すべての人が平和であることを願い亡くなったのだ、と思った遺言の執行者たち。

 ノーベルは遺言の中で、「前年中に人類に最大の利益をもたらした人」に授与するように書いている。

 ノーベル賞の各部門、物理学、化学、生理医学、平和活動そして文学について、「人類に最大の利益をもたらした」人または人たちに与えたいと考えた。

 ノーベル物理学と化学賞はスウェーデン王立科学アカデミー。生理医学賞はカロリンスカ研究所。文学賞はスウェーデン・アカデミーにお願いすることにした。

 平和賞はスウェーデン国内の機関ではなく、同君連合のノルウェー王国議会にノーベル委員会を設け、選考をお願いすることになった。

 ところがノーベル。賞の選出機関に指名したところに、事前に話を通していなかった。

 指名された各機関は引き受けるかどうか非常に迷ったが、結局は了解してくれた。

 遺言に従い、ノーベルの残した資産ほぼすべてを新たに創設する「ノーベル賞」の設立に使用する。

 そして、賞の基準に沿って選考を行った。

 物理学、化学、生理医学の各部門は、それぞれのカテゴリーにおいて、優れた研究を行った人、新しい技術を発見した人や新しい器具機械を発明した人。そしてそれによって人類社会に並外れた貢献をした人に授与する。

 平和賞は、国家間の親睦、軍隊の廃止または削減、国際平和会議を設立、平和活動を促進し、平和に最も貢献した人に授与する。

 では文学賞はどうか。

 文学賞のノーベル委員会は、喧々諤々の議論の結果、ノーベルの遺書に書いてある「理想の方向性」、これは「高尚かつ健全な理想主義」として解釈する。ということに相成った。

 1901年、ノーベル文学賞の受賞者が発表された。

 フランスの詩人でエッセイストのシュリー・プリュドン。

 受賞理由として、「高尚な理想主義、芸術的完璧さ、そして稀有な組み合わせの印象を与える彼の詩的構成が特別に評価される」

 ところがこれにスウェーデンの文学界が猛批判。

 スウェーデンの著名な劇作家アウグスト・ストリンドベリを筆頭に四二人の作家が賞の発表を受け、スウェーデン・アカデミーに押し掛けて猛抗議。

「なんでトルストイじゃないんや」

「無神論者はノーベルの賞もらえないのか!」

 新聞マスコミは、レフ・トルストイの無政府主義の立場、無神論の考えがマイナスになった。さらに長く敵対関係にあるロシア出身者だから受賞できなかったとの憶測記事を流すものだから、受賞はトルストイで間違いないと思って人たちからは総スカンを受ける結果に。

 そもそもトルストイはノミネートすらされていない!。

「私はトルストイ氏にこのひどい仕打ちに対する同情の手紙を書く」

 と言い放つストリンドベリ。

 他の作家たちも「そうだそうだ」と同調し、帰っていった。

 翌1902年に、ノーベル文学賞はドイツの歴史家テオドール・モムセンに授与された。

 トルストイは1902年以降、数度ノミネートされたが、受賞することはなかった。

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理想的な方向へ i idealisk riktning 林マサキ @hayashi-Kirjailija

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