理想的な方向へ i idealisk riktning
林マサキ
第1話 ノーベルの遺言
「アルフレッド・ノーベルが死んだ‥‥‥」
スウェーデン国内はこの話で大騒ぎだ。
1896年12月10日。アルフレッド・ベルンハルト・ノーベルが、イタリア・リグーリア州サンレモで亡くなった。
ノーベルは、実業家で自身も技術者として科学の発展に重要な貢献をしている。
特に、ニトログリセリンを使用した爆薬であるダイナマイト(1867年に特許取得)を開発した発明家でもある。
ダイナマイトは、道路の建設、住宅開発や農村・農林の開発に多大な貢献をしたが、戦争目的のために利用されるのを知って非常に心を痛めた。
ダイナマイトが絶えず平和利用されることを望んでいたノーベル。
ダイナマイトの戦争利用される苦しみと、ビジネスのための絶え間ない海外旅行と苦しみながらの研究は、ノーベルの体を徐々に蝕んでいたのだ。
24 歳で最初の特許を申請した発明家ノーベルは、研究のあいまに、いくつかの文学作品を書いていた。また、蔵書家でもあり、二六〇〇冊ちかい 蔵書を所有していましたが、専門書だけではなく、そのほとんどが文学作品フィクションでした。
スウェーデン語、ロシア語、ドイツ語、フランス語、英語など6 つの言語を流暢に話せ、スウェーデン語と英語の両方で詩を書きましたが、その作品は主に人生における孤独、憂鬱や悲しみをテーマにしていた。
ノーベルとその親族は国内外で多くの事業に乗り出したが、最も有名なのは鉄鋼生産会社であるボフォース社の経営であり、ボフォース社を大手軍需会社に成長させた。
ボフォース社は1646 年に製鉄所として設立され、1870 年代に鉄鋼生産をはじめ、1883 年に大砲の製造を開始した。
1894 年にノーベルを経営者として迎えている。
財を成したノーベルは遺言の中で、自分の財産を、賞を分配する財団の設立に使うよう命じた。
この遺言の中で、残された全財産を、
「前年中に人類に最大の利益をもたらした人々に賞品」を授与するために使われるべきである。そして、
「私の残りの実現可能な資産はすべて、次のように支払われることになっています。私の執行者によって安全な証券に変換された資本金は基金を構成し、その利息は、前年中に賞品として毎年分配されることになっています」
の文言は、資金が将来的にも十分であることを保証するために、設立される財団が受け取った資金は政府証券に投資することと理解された。
その利息は 五等分して次のように分配される。
一つは物理学の分野で最も重要な発見または発明を行った人に与えられます。
一つは最も重要な化学的発見または改良を行った人物に与えられる。
一つは生理学または医学の分野で最も重要な発見をした人物に与えられる。
一つは文学の分野で、理想的な方向で最も優れた作品を生み出した。
そして一つは、国家間の親睦、常備軍の廃止または削減、平和会議の設立と促進に最大限の貢献をした人物に贈られます。
とあった。
その一つである文学について、
「文学の分野において、理想的な方向で最も優れた作品を生み出した」
の文言。
「理想的な方向」とは?
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