此岸で羽休め

 先日、度会殿の家に深夜に訪問し、酔い潰れるという大失態を犯してしまいました。

 彼岸では珍しい甘いお酒をご馳走になって、その後の記憶がありません。

 翌朝、気付くと私は度会殿の布団を借りて眠っていました。何でも、呑んでいる途中で寝落ちしたため、寝具を貸してくれたそうです。


「酔って呼び出したんは俺やし。むしろ、客用の布団なくてすまんな」


 私としては、夜中に他所様の家に押し掛けた挙句、こんな醜態を晒した娘を外に捨てなかった度会殿が仏のように見えました。

 そう言うと、度会殿はげんなりとした顔をして。


「あんなァ……酔った女の子ォ外に捨てる奴おったら、そいつは間違いなく鬼畜やぞ」


 それに、度会殿は私を布団に入れてくれただけで、性的な意味で手を出していませんでした。

 確信はありませんが、私にある種の情を寄せてくれていると思しき殿方が、据膳というのでしょうか、こういう状況で手を出さなかったことに、私は驚きました。正直、理由があったとはいえ、深夜に男性の自宅に行ってしまった以上、何をされてもおかしくなかったはずです。いえ、私は決してそういう行為をして欲しかったという訳でも、度会殿への信用が皆無という訳でもなく、ただ純粋に度会殿の誠実さに心を打たれたと申しましょうか。普段の言動が言動ですし、尚更。

 綾芽も、その事実に酷く驚いていました。

 そう言えば、またまた度会殿は苦虫を千は噛み潰したような酷い顔をして。


「俺のこと、ケダモノか何かやと思ってへん?」


 そこまで末期とちゃうわと、ツッコむのも疲れたと言わんばかりに、げんなりしていました。

 しかし、酔って呼び付けられたとは言え、最終的には深夜に保護してもらった身。何かお礼がしたいと申し出たところ、度会殿は少し考えてこう返してきたのです。


「ほんなら、俺と此岸に遊び行こか」


 俗に言う、逢引デートを求められました。



 ***



 断るにも断れずどころか、結構乗り気な内なる自分に姫巫女は吐息をついた。

 もっと姫巫女として、しゃんとしなければいけないのに。度会と外出することを楽しみにする自身を止められない。先日の件だって、悪夢で錯乱していたとはいえ、深夜に男性の家に行くなんて、はしたないにも程があった。

 綾芽が用意してくれた、此岸の普段着である洋服を纏いながら姫巫女はまた溜息を吐く。


 ――――死ぬまでに、誰かと結婚して、誰かに抱かれて、自分の子を産み、姫巫女の血を次代に繋ぐ。


 それは子供の頃から認識していた、姫巫女として歩むべき道だ。

 それなのに、自分はいつからか独りで姫巫女としての責務を全うすることに全神経を注いでいた。


 ――――いつから、だろうか。


 いつから、自分は恋や愛、誰かに情愛を感じることを拒絶するようになったのだろう。


「……母上」


 幼い頃は、よく母に宣言していたのに。


『私、大きくなったら――お嫁さんになる!』


 眉間を摘まんで呟く。


「……何故」



 ***



 彼岸の者が此岸に行くこと自体は特に問題ない。魂の循環、いわゆる輪廻転生に干渉しなければ、此岸の経済に貢献するくらいは娯楽の一つとして認められていた。無論、此岸に悪しき異形がいれば、現場の判断で斬り捨てても良い。

 だが、此岸に行く許可は取る必要があった。冥府に申請を出し、三途の川を渡る許可証を得る。

 許可証には特殊な霊力が込められていて、これがないと彼岸の者は此岸で実体化できないのだ。実体化できない、というのはわかりやすく言ってしまえば、幽霊になってしまうということである。許可証を身に着けることで、此岸で人間達と同じ肉体が自動生成される仕様となっていた。

 許可証は小さな木札で、首から下げられるように紐が付いていたが、度会がそんなものを首から下げる訳もなく、ジャケットの内ポケットに忍ばせていた。

 社まで姫巫女を迎えに行くと、門の前で何やら落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見ている彼女の姿があった。てっきり和装かと思ったが、意外にも洋装をしている。此岸で服を買ったことがないと言っていたことから、恐らく姫巫女よりも自由の効く綾芽が調達してきたのだろう。姫巫女の好みや体型に合わせた服装になっていて、流石である。


「エラい別嬪さんがおるなぁ」


 ふんわりとしたベージュのロングスカートに、体のラインにフィットした白いニット。足元は慣れない土地でも歩きやすいようにという配慮だろうか、黒のスニーカーだ。髪はいつも通り下ろしていたが、耳元にいつぞや贈った髪飾りが揺れている。


「度会殿、今日はよろしくお願いします」

「ただ遊びに行くだけなんやから、そんな頭下げんでええよ」


 ぺこりと律儀に礼をする姫巫女に、度会は相変わらず真面目だと苦笑する。

 そして、今日は留守番の綾芽がキッと睨むように度会を見上げるも、慇懃に頭を下げた。


「度会殿。姫様のこと、何卒」

「わかっとる。それと、お目付け役がおらんからって変なことはせんから安心しぃ」

「その言葉、信じますよ」


 度会は苦笑を深くして呟くように告げる。


「俺は……お姫さんが受け容れてくれるまで、ただの姫巫女専従やから」


 よっぽど此岸が楽しみなのか、それとも普段着ない洋装に擽ったさを感じているのか。そわそわと落ち着かない様子で周囲を歩いている姫巫女を見ながら、愛しげに目を細める度会の目には何が映っているのか。綾芽には全くわからなかった。

 綾芽に見送られながら出発し、まずは三途の川に向かう。三途の川から此岸に渡るのだ。


「せや、これお姫さんの分の許可証な」


 適当なところに入れときと渡された木札を姫巫女は物珍しそうに見つめたが、肩から下げているショルダーバッグの底の方にきちんと入れておく。冥府からの支給品である以上、紛失したら、それなりに罰則があるはずだ。

 社から三途の川までは遠くはない。歩いて十分程度の距離だ。度会は、やけに足元を気にして歩く姫巫女に気付き、まさかと思って声を掛ける。


「お姫さん、靴擦れしとらんか? スニーカー慣れへんやろ」

「え、いえ。むしろ歩きやすくて感心して……」

「あ、そっちか」


 普段使う草履よりも歩きやすいスニーカーの履き心地に感動していただけと知って度会は愁眉しゅうびを開いた。出発早々、靴擦れで社に蜻蛉返りは勿体ない。

 あと、もう一つ。度会には、姫巫女に話さなければならないことがあった。


「なァ、お姫さん」

「はい」

「向こうで、度会殿にお姫さんって呼び合うとな、かなり目立つんや」

「あ、確かに。此岸の文化に合いませんよね。……どうしましょうか」

「せやから、俺のことは度会さんって呼んでや」


 で、と度会は続ける。


「お姫さんのことは、仮で千歳て呼ばせてもらうわ」


 ネーミングセンスええやろ?

 お姫さんっぽい名前、俺結構頑張って考えたんやで。本名は教えてもらえんしなぁ。


「他に何か呼んで欲しい名前あるならそっちにするけど、どないする?」

「――――――ッ、いえ。千歳で、お願いします」


 気に入りましたと微笑む姫巫女に、度会はそれじゃ此岸行ったらそういう感じでと笑いかけた。

 三途の川は川幅が大変広く、大きな河川であり、此岸からの死霊が渡る区域と彼岸の住人が使用する区域とで分けられている。そのため、三途の川を渡っても、死霊と遭遇することはない。

 死霊の渡る区域とは異なり、彼岸の住人が使用する区域には特に人員が配置されていなかった。三途の川に近付くと許可証が勝手に反応し、此岸まで身体を運んでくれる。ただ、行き着く先は川を渡る者の意志によって決定される。

 度会はともかく、姫巫女はこれからどこに行くのか、此岸にどういうところがあるのか、イマイチよく掴めていなかった。無論、此岸については知識が多少あるものの、所詮は書物や伝聞で把握したものであり、度会のように何度も足を運んでいる者の知識に比べたら、圧倒的に知識不足と言えた。

 それは度会も承知しているため、河原に着くと姫巫女を振り返って手を伸ばした。


「お姫さん、向こう着くまで俺の手握っといて」

「え」

「俺と一緒に行くって思ってくれたらちゃんと同じ場所に出るはずやさかい、頼むな」


 それは結構大事なのでは。

 もし、意識が逸れたりしたら度会と此岸ではぐれてしまうかもしれないということではないのか。知らない土地に独りぼっちになる可能性に恐怖を覚えた姫巫女は、度会の手を取って自分から身を寄せた。


「お姫さん?」


 距離の近さを不思議に思った度会が姫巫女の顔を覗き込むと、姫巫女は俯き気味に呟く。


「……はぐれたら、恐いので」

「……ほうか」


 姫巫女の胸中を察した度会は離れないよう繋いだ手を引いた。


「恐かったら、目ェ瞑っとき」


 ちゃんと握っとるから、と言い聞かせて許可証から溢れる霊気に身を委ねる。日常的に味わっている感覚だというのに、姫巫女がいるだけで妙に緊張感がある。

 無事に行って帰ってこなければならない。自分一人なら多少トラブルがあっても大した問題ではないが、姫巫女がいるなら話は別だ。

 遊びに行くだけとはいえ、姫巫女の存在の大きさに度会は微苦笑を零す。

 何があっても、姫巫女は無事でいて欲しいのだ。それは、ずっと変わらない。



 ***



 ゆらゆらと、不思議な感じがする。

 心地良いような、恐ろしいような。


 水は時と時を繋ぐ。あらゆる時間に繋がっている。


『――』


 思い出さないようにしている、母上の声。

 私の名を呼ぶ、唯一の声。


 父上は母上が孕んでいる時に、病で亡くなったから。

 私の名を知るのは、母上だけ。


『――』


 ずっと呼ばれていない、私の名。


 だけど。



 ***



「千歳」


 度会の呼びかけで姫巫女は我に返った。


「大丈夫か? どっか痛むか?」


 頬を撫でる感触に、ゆっくりと意識がハッキリしてくる。


「わ、度会殿」

「千歳。――ここ、此岸やで」


 その言葉で周囲を見渡すと多くの人が行き来している。往来の邪魔にならないよう道の隅にいることに気付き、姫巫女は慌てた。


「すみません! 私」

「ええて。ぼうっとしてたけど、気分は平気そうか?」

「はい」

「じゃ、行こか」


 まだ手を繋いだままであることに気付き、姫巫女は解こうとするも、度会にしっかりと握られてしまって解けない。


「あ、あの度会殿、手を……」

「千歳。呼び方」


 いつもより甘やかすような口調に嫌でも顔に熱が集中する。多分、此岸ではこうやって男女が歩いていると恋仲と思われるから、最初からそのように振る舞ってしまえば変に誤魔化す必要がなくて楽ってことなんだろうけど、それにしても。

 姫巫女の心中などお見通しなのか、度会はふっと笑った。


「ほんま可愛えな。そない固くならんでもええのに。取って喰いやせんて。でも、はぐれたら大変やから手はこのまま、な」

「度会さん、何で遊びに行くなんて言い出したんですか?」

「ん? 千歳、こういうとこ来たことない言うてたやろ。気晴らしになるやろうし、ええかなぁ思て」

「……そう、ですか」


 先日、酔ってどこまで吐き出してしまったか姫巫女はよく覚えていない。悪夢を見て心細くなったことは話してしまった気がする。

 それなら、この外出は姫巫女の心を少しでも癒そうと度会が気を遣ってくれたことになる。

 度会には、いつも大切にされるばかりだ。何も返せていない自分に飽きもせず、呆れもせず、どこまでも大切にしてくれる。

 隣を歩く男は軽薄なのに、酷く情が深い。

 そこに、どうしようもなく惹かれる自分に、姫巫女はまだ戸惑っている。


「観光地とか行ってもええけど、多分千歳は普通に買い物とかしてみたいやろ」

「え?」

「服とか、自分で選んでみたくないか?」

「い、良いんですか? 度会さん、それじゃ暇でしょう……?」

「何言うてんねん。俺が買い物付き合うの嫌がるような、そない狭量な男に見えるか?」

「み、見えませんけど! 私が申し訳なくて……」

「千歳」


 繋がれた手が持ち上げられ、度会の頬に寄せられる。すり、と頬擦りされた途端、反射的に胸が締め付けられるような感覚に姫巫女は息を呑んだ。


「っ!」

「我儘、言うてや」


 今日くらいは、普通の女の子になってええんやで。

 仕事も何もかも脇に置いて、楽しんで欲しいねん。


「じゃなきゃ、俺が泣いてまうで〜」


 ニヤニヤと笑いながら大袈裟に嘘を吐く。けれど、その嘘は姫巫女への優しさそのものだ。

 度会が望んでいるのだ。姫巫女が好きなように遊ぶことを。


「……じゃあ、買い物したいです」

「素直に言えてええ子やな。ほな、行くで」


 人々の流れに合わせて歩く。スーツの人、制服の人、私服の人、色々な人が歩いている。

 姫巫女は度会を見上げ、周りに聞こえないよう小さく問う。


「ここって、此岸の中でも都会なんですか?」

「せやな。そこそこ都会やで。田舎もええけど、田舎の景色は彼岸に似とるからな。せっかくなら、見慣れないもん見たかったやろ?」

「ありがとうございます。何から何まで」

「千歳が楽しんでくれるのが一番やから」


 繋がれた手にぎゅっと力が込められ、スリスリと親指で撫でられる。手の擽ったさが頬に熱を生み、胸と腰に甘い痺れが走っていく。

 この感じ、多分だめだ。


「度会さん、やめ」

「んー?」

「手、やめて……っ」


 度会は懲りずに続行しようとしたが、見上げてくる姫巫女の顔を見て撫でる動きを止めた。


「あかん」

「え……?」

「そないな顔したらあかんで」

「?」

「自覚なしかい……」


 大きな溜息を吐いて度会は空いている方の手で頭を掻いたが、姫巫女は何のことだかさっぱりわからなかった。

 度会が向かったのは駅ビルだった。様々な路線が入るターミナル駅で、出口がいくつも点在し、オフィス棟から商業施設まで揃った駅ビルが多数そびえる、まさに都会の風景である。


「確かに、これは彼岸では見られませんね」


 姫巫女が目をパチクリさせて、珍しそうにビルを見上げる。


「あんま見上げるとひっくり返ってまうで」


 そんな反応が面白いのか、度会に笑いを含んだ声音で揶揄われる。


「さて、俺も女の子向けの店はそう真面目に見たことあらへんし、適当に歩きながら気になるとこ入ってみよか」


 駅に入ると更に人混みが悪化した。ビルの入口はどこなのか、どっちが改札なのか。人に揉まれて全くわからない。姫巫女は視界が回りそうになりながら、必死に度会の動きに付いて行く。

 ビルの中に入ってようやく人波が落ち着いたので、周囲の店先を眺めてみる。彼岸では和装が主流なので、洋服自体が珍しい。綾芽が用意してくれた服も、見た時はこんなに可愛らしい服があるのかと驚いたものだ。

 何となく雰囲気が好ましく感じた店に吸い寄せられると、度会が問い掛けてくる。


「ここ、見てみるか?」

「はい」

「りょーかい」


 流石に店の中でまで手を繋いでいるのは恥ずかしかったので、さり気なく解くと度会はあっさり放してくれた。

 姫巫女が物珍しそうに商品を眺め、その様を度会が眺めている。

 視線が気になって、姫巫女は商品を手にしながら度会を振り返った。


「暇ですよね。すみません、私ばかり楽しんで……」

「ん? 別に暇やとは思ってへんよ」


 度会は社交辞令ではなく本気でそう思っているようで、気に入ったなら試着してみぃと勧めてくれた。

 手に取ったのは、ふわふわとした質感が心地良い黒のアウターと、腰にリボンが結ばれているベージュに近い色味の薄いピンクのスカートだったが、試着室で着てみれば良さそうでほっと息をつく。

 外で待っている度会に、サイズは大丈夫そうだと伝えれば。


「ほんなら、俺にも見してぇな」


 と強請られるので、カーテンを開けて見せると、満足げな顔で。


「よう似合てる」


 と、褒められる。

 先程から他の女性客達が度会に視線をチラチラ向けてくるので、姫巫女は正直なところ居心地が悪かったのだが、度会は周囲の視線など全く気にせず、姫巫女だけを見ている。


「これ、買いますね」


 私服に着替えてレジに向かおうとすると、度会も付いてくる。


「すぐ終わるので外で待っててください」

「何言うてんの。千歳に払わせるわけないやろ」


 あっという間に抱えていた服を盗られ、さっさとレジに向かってしまう。


「あ、ちょっと!」


 千歳の制止を聞くわけもなく、度会は会計を済ませてしまった。店の外に出ると、姫巫女は度会から袋を受け取ろうとするも、これもまた拒否される。

 何から何まで度会に頼りきりのようで情けなくなってきた。


「自分のものは自分で払いたかったのに」

「俺の顔少しは立ててぇや。この状況で彼女に払わせる男おるか?」

「彼女って、私達そんな関係じゃ……っ!」


 咄嗟に否定しようとするも、度会が腰を曲げて姫巫女の耳元で問い掛ける。


「それは、向こうでの話やろ?」


 この此岸において、姫巫女と専従者の関係性は何の意味も持たない。この世界では、ただの男と女に過ぎないのだ。

 それを突きつけられてしまえば、姫巫女は狼狽えるしかなくなる。此岸で上手くやるための見せかけとはいえ、こんなにも当たり前のように男として振る舞われると困ってしまう。


「今だけの設定やろ。そない真っ赤にならんでも」


 度会の声音に苦笑が混ざっていることが悔しくて仕方ない。


「……どうして、私を此岸ここに連れてきたんです? 近所でも羽を伸ばせそうな場所はあったのに」

「俺は千歳のわろてる顔が見たいだけや」


 こんなにも真っ直ぐに想われて、揺らがない女がいるだろうか。

 姫巫女は思う。完敗だった。

 素直に認めてしまえばいい。自分の本心を受け入れてしまえばいい。

 そう思うのに、何かがそれを拒絶する。

 それは天命に生きたいという信念でも何でもない。だが、酷く重くて恐ろしい何かだ。


「千歳?」


 度会が黙り込んだ姫巫女の顔を心配そうに覗き込む。

 姫巫女は頭を振って顔を上げた。


「ありがとうございます、度会さん」


 袋を持っていない方の度会の手を取って、姫巫女は歩き出す。驚いたのか、度会が一瞬だけ目を丸くしたが、すぐそれは嬉しそうに柔らかく細められる。


「次、何見ます?」

「せやなぁ……」


 そろそろ何かおか?


 度会の言葉に頷いて二人一緒に足を進めながら、姫巫女は思う。


 せめて、今だけは。

 自分の立場も何もかも忘れて。


 ただの女として、この人と一緒に笑っていたかった。

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