黒板消し

ナナシリア

黒板消し

 白熱した立体図形の授業を終えた黒板は、戦いの後の焼け野原かのごとくに荒れていた。


 力強く荒く踊る無数の文字、数字、図形……。その数々が、授業の白熱具合を表しているようで、その黒板を見ていると胸が熱くなる。


 そんな黒板を眺めている俺の熱を冷ますかのように、俺と板書の間に割り込んだ影が一つ。


 普段から積極的に黒板を消す彼女は、例によってその手に黒板消しを握って板書を消している。


 まるで努力の結晶が失われているかのようで、俺は今度は感傷に浸らざるを得なかった。


 力強く荒い文字や数字や図形、それらが黒板の上で引き延ばされ、白く薄く延びた原形を残さない汚れと変化していく。


 そこで彼女は、黒板消しを黒板消しクリーナーで綺麗にした。


 生まれ変わったような黒板消しで、白く薄く延びた汚れが消されていく。


 気づくとそこにあったのは、授業前と――いや、入荷したときと変わらないような、まっさらな黒板だった。


 俺の人生の軌跡も、いつかはこんなふうに消され、なかったことにされてしまうのだろうか。


 俺は視線を伏せた。


 伏せた視線の先には、これまでの白熱した授業を記録したノートが、開かれたままの状態で置かれていた。


 当然すべての内容が記録されているわけではなく、俺が価値があると判断した内容だけがそこにはあった。


 努力の結晶は失われたかのように思えたが、そうではなく、授業を受けた生徒それぞれのノートに記録されていた。


 じゃあ、俺の人生も。


 誰かのノートに記録されるような、価値のあるものにしていきたい。


 そう思った。

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黒板消し ナナシリア @nanasi20090127

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