時間跳躍探偵の冒険録

@kaichouayatori

第1話 先生の死/新たな出会い


其れはまさに俺の人生を変える二回目の出来事だったと言って過言でないだろう。それはそれは唐突な出来事だった。



あれはとうに日は沈み月が顔を見せ霜が降り霧が深くなってきて街灯も薄暗く照らすだけの真夜中の事だった。

俺はこの機械仕掛けの国、ギアナで目に見えてやすい生地の薄っぺらいコートを一枚だけ羽織って寒い夜の中をガクガク震えながら移動していた。




「全く、あいつ…クソォ!足元見やがって!!ブエクショイ!!!先生の元で育った仲間じゃないのか!ブエクショイ!!」


鼻をすすりながら寒空の中、嫌な奴らのことを思い出す。


「ズビビ…なーにが『お前は先生から可愛がられていたもんな、あの先生が大事にしてたコートをやる…だ、なに気にするな俺には似合わなそうなものだからな』だ!


ブエクショイ!そもそも飾ってただけで先生が使ってるとこ見たこと無いし!


なーにが『あら、似合ってるじゃない、あなたが着ると……ふふっ、尚のことお似合いだわ』だ!


アレクは先生の家を持ってっちまったし、エリーゼは金目のものを家ん中から半分持って行っちまうし!!

……はぁ、明日からどこで生活すればいいんだ、家とられちゃったしなぁ、アイツらも昔はもっと可愛げがあったんだけどなぁ〜、探偵として個人で有名になってくにつれて傲慢になっちゃってまぁ。 」


「家を取り壊そうとしたり、なんなりしようとしないところから見て先生のことは今でも好きなんだろうけどなぁ…なんかムカついてきたな、ヨシっ!

あんな奴らには負けないぞ!ここからでも有名になって絶対見返してやるんだからな!!」


相変わらず止まらない鼻をすすりながらそれでも少しでも暖かく清潔な場所を求め歩く。

しかし、人間は、特にこの男はかくも意思の弱い生き物であった、2時間も歩けば

「うん、決めた!明日になったらアレクに1部屋だけでも借りられないか直談判することにしよう」必要なら頭も下げよう。

それでも首を縦に振らないようなら靴でも舐めてみようか。


少なくともそう決心を固めるほどに俺のプライドは軽かった。


そこで気づいた。ふと見れば街灯の光が全て消え周りが月と星の明かりしか頼りにならないような状態になっていた。

だが悲しいかなこの街は機械仕掛けの街という位だから排気ガスが酷く月光が霞んでしまう。


「おいおいこんな時間に停電か?警備用オートマタが止まったりしねぇだろうなー」


ここまで自分で言って、警備用オートマタにはそもそも緊急停電でも使用可能な用にバッテリーが備わってる事を先生から小さい頃に教えて貰ったことを思い出し先生を思い出す。

自分と会った時からもう既におばあちゃんで、あの暖炉の近くで優しく微笑みかけてくれる先生を。

「なーんで今死んじまったんだよ…まぁ老衰なぶん良いけどさズビビ…」

思い出に浸りながら朝まで暇を潰せる場所を探していると

少し遠くの方から複数の走る足音が聞こえるのを感じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それは私の人生を変える初めての出来事だった。



「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

走る、走る、ただただ走り続ける。

もうどのくらい走っただろうか、自分は中々外に出ないからもしかしたら距離だけ見るとそんなに走ってないのかも。


「おい!いたぞ!!追え!!」

自分の後ろで30分程前から追いかけてきてる屈強な男達の声がする。

「ッ!逃げ、なきゃ……!!」

震える足に鞭を打ち、本来ならもう動かないはずの体に力を込め前に踏み出した…

「きゃっ」

はずであったが小石につまづき前に倒れ込んでしまった。


「可愛こちゃーん逃げないでよー」

「おいおい、ようやくかよ、最初から転んでくれりゃ簡単だったのに」

「簡単だったのにぃ!」


追いかけてきた男たちの声がゆっくり近づいてくるのがわかった。

もう終わりだ。そう思った。


「んーと何やってんの?」

その時だ、あなたの声が聞こえたのは。


ーーーーーーーーーーーーーー


えぇ、(困惑)なんかフードを深く被った女の子相手に可愛こちゃーんとか言ってる。ヤバ、

流石に止めなきゃだよな…


「んーと何やってんの?」

俺が困惑気味にそう聞くと

「あ?邪魔すんなよクソジジイ」

とミスター可愛こちゃんがガン飛ばしてきた。柄悪っ。


「いやいや俺が邪魔しなくともそのうちすぐに警備用オートマタが周回してくるだろ?後ジジイじゃない。」

まだ18だぞ。ピチピチだぞ。

至極当たり前の事を返すと男たちは一瞬ポカンとした後笑いだした。


「警備用オートマタだ?お前バカかよ」

「お前貴族か?」

「貴族かァ?」


何言ってるんだこいつらは、貴族制度なんてとうの昔に廃止されているし警備用オートマタもここら周辺にはないような口ぶりだな。そんなわけないのだが、…にしても!

「貴族だぁ?ンなわけあるか、こんな薄いコート着てる貴族がどこにいんだよ!」

寒さもあり少しイラついた僕は口調を少し荒げて自虐する。


「ま、そりゃそうか貴族サマはこんな警備もなってないW地区に来ないわな」


警備もなってないW地区?

「ええい、貴族だろうがそうじゃなかろうがどっちだっていい!おい、そこの女を渡せ」

辛抱たまらんと言った感じで男がそこに転んだ女の子を指さす。


「無茶言うなよ、どう見ても暴漢に襲われてるとこに女の子一人で置いてけるか」


「おい、ジジイ、悪い事は言わねぇ、失せろや今からそこのねぇちゃんとイイコトすんだよ」

取り巻きの男たちが軽く取り囲むように広がる。


これは人をボコり慣れてるとみた…ここで止めなきゃ別の被害が出るかも知れない。

「ジジイじゃねぇって言ってんだろ、どつき回すぞコラ……ま、荒事はまだ得意なんだよね、ハンデやるよ、俺は左手使わないね」


「た、助けてくれるんですか…?」

後ろから綺麗な女の子の声が聞こえる、きっとこんな状況になって怖くて今まで声が出なかったのだろう。

「うん、お兄さん(ここ重要)に任せなさい」

構えは崩さず相手の方を見ながら女の子の質問に答える。


「カッコいー、てめぇいい度胸してるぜ?なかなか居ねぇよ3人に囲まれて一切動じねぇの、でもカッコつけすぎだッ!!」


その言葉を合図に3人同時に殴りかかってくる。

恵まれた体躯から繰り出される大振りの拳は素人丸出しだが体が良いためそこらの一般人の拳より幾分威力が乗っているように見える。

まともに受ければ受けた手は大きいダメージが入り、痺れて相手を殴らなくなってしまうだろう。なんとも困ったな、こうなればしょうがない、これだけはしたくなかったんだが(笑)。

俺は走りながら近づいてくる男たちを見ながら狙いを定めた。


「えいっ☆」


ふざけた掛け声を掛けながら俺は砂を撒いた。

男たちは律儀にも俺が左手を使わないと言ったことを信じていたのか驚愕の表情を浮かべながら僕の放った砂をバカの大将は顔面で受け止めた。

クール!

「「「汚ぇぞ!!」」」

戯言バカの負け惜しみを聞き流しながら

そのまま流れるように目を抑えた大将の腹に正拳、前蹴りをお見舞いする。金的に。

良い感じに入ったんじゃない?

確かな手応えがあったし…うわ痛そ

「あっ」「センパイ!」

そんなうずくまる大将を見て取り巻きの二人は網に気づいた魚のように狼狽え、とやらを抱えて夜に消えていった。



「ふぅ、一件落着、いや一拳落着か」

昔数回だけ稽古をつけてもらったことのある先生よりも弱いな。…あの人がおかしかっただけか。

あの人がおかしいだけだな…

「さて、そこのレディ、無事かな?」

俺ってば何てクール!

こんなんされたら俺に惚れち待ってもおかしくないZE☆




ん?




俺は言葉を失った。

「あ、あのありがとう、ございます」


か、か、可愛すぎるッ!夜でも燦々と光り輝くようなショートカットの赤髪、さっきまで走って追いかけられてたからだろう、息切れを起こしている色っぽい息遣い、それが寒い夜と月明かりに当てられて白くぼやける。汗ばんだ肌に自分が物理的に上にいるからゆえの上目遣い……!!!



「あ、あの?どうしましたか?顔に何か着いてますか?」

こんな事を考えてる間も顔を凝視してることに気づいた。

「おっと、ごめんね?無事でなにより、あと顔には何もついてないよ」

惚れちまうのは俺の方だったわ、あぶね


未だに転んだ体勢の女の子に手を貸す。

手を借りて起き上がり立つ女の子。

「こんな時間に女の子が一人で歩くのは危ないよ?良ければ親御さんの所まで送っていくけど?」


僕がそう言うと少し寂しそうなことをし、

「あーえっと、初対面の人に言うのもなんですけど、私父と喧嘩して家を出てけってちゃって、分かるまで帰ってくるなと言われちゃいました」

そうだったのか…

「なので家から目についた別荘の鍵を一つ掻っ払ってきたんです!なんか出て行く時にすごく慌ててましたけど」…ん?

フンスッと鼻を鳴らし胸を張る女の子

きゃわ。

「家出してるって事?それでも別に住むことのできる家があるって凄いね…でもそれは…」

本当に出て行って欲しかったわけじゃ無いんじゃ

そう言おうとした時

「お兄さんが言わんとしていることは分かります。確かにもっとその別荘の住所を調べてから鍵を取るべきでした。」

そう言うことじゃ無いんだが…まぁいっか

てか、そんなにここって治安悪かったっけ?と考えていると女の子が寒いのか震えてんのが分かる。


「寒いの?ならあんまり効果ないかもだけどこれあげるよ」

僕は着ていたコートを脱いで女の子に渡した。

「えっ!良いのですか?」

「うん、俺別に寒くないから」

当然嘘だ、激寒い、だが先生だって自分が持ってたコートは不肖の教え子より可愛い子に使って欲しいはず。

「レディーには優しくするんだよ」そんな教えを思い出していると、ビルの間で冷やされた風が僕たちの間を通り抜けた。


「あっさむっ!……あれっ!?フード取れてる!?」

風によってフードが取れていることに気づいた女の子が驚愕の声を上げる

「今更?」

「えっ!もしかして」

「うん、俺が手を貸した時くらいから取れてたね」

「……私の髪を見てもなんともないんですか?」

「赤髪だとどうにかあるの?」

「…いえ、」

「じゃあ問題ないね…ズズズ」

「…」

「…」

「やっぱり寒いんですか?」

「…はい」

「ここから家近いんですけど、お礼も兼ねてココアでも飲みませんか?」


この時頭の中に天使と悪魔がでてきた。


天『ダメよ、一人暮らしの女の子の家にお邪魔するなんて、紳士的に対応しなさい』

悪『でも、めちゃ可愛いよ?しかもコートあげちゃったしこのままじゃ朝までに凍死しちゃうかも』

天『じゃあ仕方ないか』

弱いな俺の天使


「是非!!」

俺は勢いよく頷いた。

弱いな俺の天使(二回目)

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