第4話



 結局俺に付いて来られたのは、この女だけだった。

 赤いショートヘアーが印象的だ。それに着ている服装からしてそれなりに身分の高い者なのだろう。


「大丈夫か? 」


「ええ」


「村まではもう直ぐのはずだ」


 俺はそう言って、女の手を引いた。

 そして以後、幸いにして魔物と出くわすことなく何とか村があるはずの場所に到着したのであった。判っていたことだが、魔物に滅ぼされており、廃村になっている。

 だが、一部建物は残っているので、そこで身を隠すことはできるだろう。


「中を確認してくるから、待っていろ」


 俺は、建物の内部に危険がないことを確認し女を呼んで中に入れた。


「たったの2人になってしまったが、何とか町には行きたい」


 俺はそう切り出した。


「ええ。私も何としてでも町へは行きたいところです……」


 そう言う女だったが、何か特別な使命があるように感じたのである。

 しばらくの間、静寂に包まれる。


 ……。


「もはや、こういう状況です。貴方を信頼してお話しますね。実は私は第一王女なのです。王弟の陰謀によって、王都から締め出されたのです。私のせいで貴方たちにもご迷惑おかけして申し訳ございません。お亡くなりになった貴方の部下たちについても、どうお詫びすれば……」


 第一王女だったのか……。

 と言うことはだ。

 あの黒い甲冑姿の男は表向きは、俺たち傭兵を嫌悪しての行動としてこの第一王女を王都から追い出すことに成功したわけだな。

 そして、そういう行動に出る理由はとても簡単だ。

 次期国王を目指しているのだろう。こんなご時世とはいえね。


「特に謝る必要はない。殿下は王女として、とても酷な立場にあると思うよ。だかたなら尚更、町へ行かないとな! 」


 俺はそう言って、彼女を励ましたのであった。

 それに、あえて敬語は使わなかった。



 廃村へやって来て、何とか一夜を休んで過ごすことはできた。女とは色々なことを話してから眠りについたのである。


「よし、出発するぞ」


「ええ。よろしくお願いいたします」


 こうして俺たちは廃村を後にするのであった。

 2時間ほどは魔物とはあまり出くわさずに済んだものの、次第に魔物の数は多くなっていき、とてもじゃないが前には進めくなってきた。


 それに、巨大な蜂ののような魔物もいる。

 何とか雑魚は蹴散らしたものの、蜂のような魔物はまだ残っている。


 「ぐふっ! 」


 その蜂のよう魔物は、俺の腹に針を突き刺したのである。

 幸いにして防具である程度は防げたものの、多少の傷は負ったであろう。

  

 その後も俺は女を背にし我武者羅に斧を振り回し、何とかその蜂のような魔物の首を切り落とすことに成功したのだった。

 

 だが、気づけば俺は地面に倒れていたのである。

 なるほど、先ほどから急激に体がだるくなったと思っていたが、蜂のような魔物が俺の腹に針を突き刺し、毒を入れられたのだろうな。


 突然にして、死が近づいたようだ。

 女の声がするものの、もはや何を言っているのは俺には聞こえなかったのである。

 




「こ、ここは」


 俺はお花畑にいた。

 かつて、このような光景を見た覚えがある。

 

「おお、帰って来たか」


 老人がいた。

 どこかで見覚えがある。そして俺は全てを思い出したのであった。俺は、お金に困って大阪へ行こうとしたところ、この老人に出会ったということを。


「まさか……」


「ずっと見ていたが、1000万円分の働きはしてくれたようじゃな」


 そうだ。

 俺は、1000万円のために老人の仕事を請け負ったのである。


「お主はまた23歳として、元の世界に戻る。新しい就職先でも苦労するだろうが、まあ頑張るのじゃぞ。それとお主が今一番気になっていることを簡潔言おう。第一王女は無事に町へ辿り着き、魔物たちの掃討作戦を実行し王国を解放していった。お主のおかげじゃ。それに特別な試練にも耐えたのだ」


 特別な試練? 

 なんのことやら……。


「そうですか。それは良かったです」


 彼女は無事だったか。良かった。

 俺がそう安堵した瞬間、眩しい光に包まれた。


 


 気がづけば、アパートの駐車場に居た。

 そうだ。これから大阪へ行こうとしていたのだ。


「ようやく会えましたね。お久しぶりです」


 不意に脇から女が聞こえてくる。

 そこには、髪の色こそ違うが、ついさっきまで共に過ごした女が立っていたのである。



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お金が無くなったので、色々と頑張ることにしました 牟川 @Mugawa

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