第3話
ここは、王国である。
この王国に名前はない。かつて帝国があり、この王国があり、そして3つの公国があった。既に帝国と3つの公国は10年ほど前に魔物によって滅ぼされた。まともに抵抗できる勢力はこの王国しか残っていないだろう。
ただ、この王国も城壁のある王都や町のみをわずかに残すのみで、国土のほとんどを魔物が闊歩している。
食料も、まともに供給できない状況に陥っているのだ。
「魔物の襲撃してきたぞ! 」
王宮の兵士がそう叫ぶ。
その叫びで、俺たちは戦闘準備に取り掛かるのであった。これから、また誰かが死ぬ戦闘が訪れたのだ。
ある者は体を引き千切られて死に、またある者は大型の魔物にまるごと喰われて死んでいく。俺もいつ頃のことだったか、左手を喰われて無くなっている。
「そう言えば、あのご老人はまだ生きているのかな」
不意に昔出会った老人を思い出して、そう呟いた。
もう30年は前の話である。
「団長! 俺たちは準備が完了しました」
部下がそう言う。
「おうそうか! じゃあ後は気合を込めていくぞ! 」
俺は長い月日を戦い続け、今ではそこそこの規模を誇る傭兵団の団長になっていた。そのため貴族や王族ともある程度は、面識を持っていたりもする。まあ、このご時世に役に立つものではないがな。
そして、城壁の門が開けられた。
ここ最近では、城壁の中から弓で攻撃するという手法ではなく、あえて城壁の外へ出て戦うという方針になっている。決めたのはあくまでもお上だ。俺たちはそれに従い働き、報酬を貰うだけである。
俺たち傭兵が真っ先に門の外へと出ていく。1分もしない内に、魔物と交戦状態に入った。
「よおおし! まずは1匹」
俺は早速、比較的大型の魔物1匹を狩った。
部下たちも魔物を狩っていく。しかし魔物の数は多すぎるのだ。狩っても狩っても、キリがないということは、長年この仕事をやってきて当然知っている。しかし、魔物側もある程度の損害を出すと撤退するということも事実だ。今回も魔物を狩れるだけ狩り、そして撤退させれば良い。
そして10分もしない内に、魔物は撤退の動きを開始した。
後はこちらも王都に戻るだけだ。
だが、ここにきておかしな事態は発生したのである。
なんと、魔物も去っていったというに王都の門が閉まったままなのだ。一向に門が開く気配はない。
俺は頭の片隅で、ネガティブな想像をするのであった。
それから小一時間ほどが経過した。
相変わらず城門は閉まったままである。俺と同じく外に締め出されたままの、傭兵や兵士たちが「開けてくれ! 」と叫び続けている。
しばらくして、黒い甲冑姿の男が現れたのであった。記憶が正しければ、あの者は病床の身である現国王の弟だったはずだ。
「我が王国の危機を商売にする愚か者たちよ! お前たちは彼の魔物ども同じだ!前たち傭兵は、富を奪いとる形で我が王国を滅ぼそうとしている! 」
と、黒い甲冑姿の男が言う。
確かに傭兵は戦争を商売にしている。だが、国を滅ぼそうなどとは心外だ。
傭兵や兵士たちは抗議した。
しかも、兵士たちに至っては傭兵とは違い王国に忠誠を誓った者たちだ。彼らの一部もこうして外に出て戦っていたので、一緒に外に締め出されているのである。
「お前たちはこの王都から永久に追放する! また王都から1キロ以内に近づくことも許さん! 直ちに立ち去るのだ。立ち去らなければ矢の雨をお前たちに降らせることになるぞ」
ここまで言われれば致し方ない。
抗議していた者たちも今の言葉で一旦は熱くなったものの、次第に静かになり、そして王都を離れるべく移動する者も出てきた。
近くの町までは、徒歩で6時間程度はかかる距離にある。それまでに何度魔物に襲われることだろうか。だがここに居ても仕方がない。俺たちも移動するとしよう。
「お前ら、とりあえず隣の町まで行くぞ。ここに居ても意味は無いからな」
こうして俺たちも移動を始めた。
数は100人程度いる。魔物に襲われても何とかなるだろう。
俺たちが移動を開始すると、結局のところ他の者たちも一緒に移動を始めたので、顔ぶれが殆ど変わることは無かった。
だが、移動を始めて2時間程度で疲れが出て来た。
今は周辺の魔物を一掃し、休息をとっている。
「それにしても前々から言われていたとおり、かなり魔物がいますね」
部下の1人がそう言った。
「ああそのようだ」
魔物たちは必ずしも徒党を組んでいるわけではないが、あちこちに徘徊している。そして奴らが気づけば、たちまち攻撃してくる。そして魔物たちが寄ってきて次第に戦いの規模は大きなっていくということが、3回もあった。
「この調子では、町に着くのにどのくらいかかることか。食料も殆どないだろうしな。本当は今頃酒場で皆で飲んでたっていうのに」
「ええ。本当ですよね」
それから引き続き休憩を取ったのち、移動を再開した。
移動を再開して10分も経たない内に、また魔物との戦闘になったのである。
「くそっ! 」
俺がそう呟いた頃には、魔物は大群となっていた。
こちら300人程度。対して魔物は既に1000体は超えているだろう。しかも大型の魔物も散見できる。
「ぐあああああああ! 」
どこかで、誰かがやられたのだろう。
俺の知る限りでは、これが1人目の死亡者だ。だがここからは、人が死んでいくのは早かった。あちこちで傭兵や兵士たちがやられていくのである。俺の部下も例外ではない。
「どこかに隠れるところはないものか……」
俺は目の前の魔物を次々屠りながら、そう考えていた。
すると、チラッと見覚えのある大木が目に入ったのである。今は戦闘中だ。それを凝視し続けることはせず、直ぐに魔物に目をやる。
「確かあっちの方角に村があったはずだ。お前ら、俺について来い! 」
俺は近くにいる部下数名だけでも助けようと、そう叫んだものの、返事はなかったのである。
気づけば、俺の左右には誰も居なかった。皆死んでいるのだ。むろん、少し離れたところで戦闘音が聞こえるので、全滅したというわけではないだろう。
「それは、この私に申しているのですか? 」
背後から女の声が聞こえてきた。
だが俺は振り向かない。そんな余裕はないからだ。
「結果的にはそうなってしまったな」
「そうですか。では案内のお願いできますか? 」
「良いだろう」
そして俺と女の逃避行が始まったのである。
目的地は一先ず、近くにあるはずの村だ。
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