第2話
本当にこれからどうしたものか。一週間もすれば家賃の支払日がやってくる。厳密に言えば、銀行口座から引き落とされるわけだが、今の残高は3万円ちょっと。
安い物件を借りており、家賃はぴったし4万円。しかし、今は3万円しかない。あと1万円足りないのだ。
しかも、いずれ訪れるであろう光熱費やインターネット料金、さらに携帯料金の支払いもある。
「大阪のドヤ街にでも行って、日雇いの仕事でも探すか……」
こう考えれば幸いにして、3万円の現金はある。
大阪までの電車賃は充分にあるのだ。新幹線は使わず、普通列車を使えばいい。そうすれば片道1万円前後で行ける。
「ここで、うだうだしていても意味はない。いっそ大阪へ行ってしまおう」
俺はまたコンビニへ行くこにした。
ATMで3万円をおろすためである。
そして、部屋の玄関の鍵を閉めそれからアパートの入口を出る。
「なっ……」
その時、俺は異様な光景に出くわしたのであった。なんと俺の視界の全面が、お花畑になっていたのである。これは決して俺の頭のことではない。
しばらくこのあり得ない光景に見とれていると、白髪の長髪が目につく老人が近づいてきた。
仙人と言えば、イメージがつくかもしれない。
「ふふっ。そんなに惚けてどうしたのじゃ? 」
と、言う。
「だ、誰ですか……? 」
突然の出来事の未だ驚いていた俺は、老人にそう訊ねたのである。
初対面の者に対して失礼かもしれないが、致し方ない。
「この光景に驚いているのじゃろう。しかしお主が今ここに居るということは、選ばれたとうことだ」
と、老人は訳の分からないことを言った。俺は一応「誰ですか」と訊ねたのだし、名乗ってくれても良いのにと思う。とはいえ、今はこの老人が何者かはあまり重要ではないかもしれない。
老人の「選ばれた」という言葉の方が気になる。
「選ばれたとは、一体どういうことですか? 」
俺はそう老人に訊ねたのであった。
「お主は、傭兵に選ばれたのだ。お金が欲しいというお主の無意識な願いが強かったためであろう」
相変わらず老人の言うことは意味不明である。だが、ここは無理にでも理解に努めることにした。まず、俺は傭兵に選ばれてこのお花畑にやって来たか、或いは連れて来られたということだろう。
そして、老人の言う「傭兵」が具体的に何なのか。もちろん傭兵が、戦争を商売にする連中であることは知っている。だが俺は傭兵になったつもりない。老人の言う「傭兵」には特別な意味があるのかもしれないと考えた。
「傭兵ですか……」
俺はそう訊ねた。
「言葉の通りじゃ。ただ場所が異世界ってだけでな」
「ちょっと待ってください。い、異世界ってどういうことですか? 」
突然異世界と言われても驚くに決まっている。それに、言い方は悪いが頭のオカシイ人として看做されても仕方ないくらいだ。
「異世界だ。わかりやすく言えば地球ではない場所にも人は住んでおり、そこへ行って戦ってきてもらうということじゃ。報酬は1000万円。これでいいじゃろ。それに別途前金として100万円もくれてやる」
「い、1000万円! 」
1000万円。
俺は、どうやら喉から手が出るほどの額を提示されてしまった。しかも前金に100万円だ。もう違法なことさえしなければ、どんなことをしても良いか!
「判りました。やらせてください俺に。どこへでも行きます」
「そうか。感謝する。では早速異世界へ転送しよう」
そう言って、老人は手を俺に向けて両手を向ける。
すると、とても眩しい光に包まれたのであった。
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