30 オーガの将義兄弟たちとの戦い 02 ヘクター対イーヴォたち
ゲオルクは息絶えた。魔族の集団もこの場を去ろうとしている。だがまだ終わりではない。
「兄者。バート。いい戦いだったぜ」
「兄者もいい死に様だったじゃねえか」
「おう。満足しきっているっていう死に顔だ」
イーヴォとカールとグンターは、ヘクターと
ヘクターが声をかける。
「あんたらは行かないのか?」
「ゲオルクの兄者と俺たちの義兄弟は死ぬのは同じ時同じ場所と決めてんだ」
「……そうか」
ヘクターはイーヴォたちなら見逃してもいいと思っていた。だがイーヴォたちはそれを否定する。魔族たちは去ろうとしているが、イーヴォたちの戦いを見届けるためか、少数の飛行できる魔族たちがその場に留まっている。
「さあ、ここが俺たちの死に場所だ!」
「ヘクター、バート。二人で来い!」
「俺たちゃ三人だ。それでも俺たちじゃお前ら二人を相手にしたら勝てねえだろうが、全力で戦おうぜ!」
イーヴォたちは吠える。
バートがゲオルクの死体から離れてヘクターの方に行こうとする。
それをヘクターが止める。
「バート。俺一人にやらせてください。俺が死のうとも、手を出さないでください」
「……わかった」
バートはそのヘクターの頼みを受け入れた。ヘクターには確信がある。たとえ自分が敗れても、一人か二人は仕留めることはできると。そうすればバートが負けることはないと。そして自分が一人で勝つことも不可能ではないと。
「俺の本当の名前はヘンリー。家名を言うのは、悪いけど勘弁してくれ」
「へっ。上等だ」
イーヴォたちもヘクターの
「おおおお――――っ!!」
イーヴォが
ヘクターは前に出ながら、その手にしたハルバードの
「俺たちを忘れんじゃねえぞ!」
「おうよ!」
その間にカールとグンターは左右に回り込んでいた。左右から同時にバトルアックスを振るう。ヘクターは身を沈めてそれを
「はっはー! やるじゃねえか!」
「ぐっ……」
イーヴォが鼻血を流しながらバトルアックスを振るう。それをヘクターは避けることができなかった。だが魔法が付与された重厚な鎧が彼の命を守った。それでも衝撃は彼の体にダメージを与える。これがゲオルクが振るったものだったら、ヘクターは行動不能になっていたかもしれない。
「おおおっ!」
攻撃の威力に一時後退したヘクターが、前に出ながらハルバードの
「カールも倒れちまったか!」
「上等だ!」
グンターがバトルアックスを振るう。ヘクターはそれを
「まだまだ!」
そこにさらにグンターがバトルアックスを振るう。それに対し、ヘクターはハルバードという大柄な武器を扱っているとは思えない精密な動きで、グンターのバトルアックスを握っているその手を攻撃した。グンターは何本かの指が切り飛ばされ、バトルアックスがすっぽ抜ける。
「それ以上はさせねえ!」
イーヴォがグンターへのそれ以上の攻撃をさせないと攻撃する。ヘクターは前に出て、イーヴォの足の間にハルバードの
「俺はまだ死んでねえぞ!」
武器を失ったグンターが、負傷したままの拳で殴りかかる。だがこの状態ではリーチはヘクターの方が長い。ヘクターはハルバードの
「へへっ……このハルバードはもう使わせねえぜ……」
「よくやった、グンター! 死ぬまで離すな!」
立ち上がったイーヴォがバトルアックスを振るう。ヘクターはハルバードを手放して
「おおおお――――っ!」
「おおおお――――っ!」
イーヴォが距離を取ったヘクターを追撃するべく、突進する。バトルアックスを振りかざす。ヘクターは
「へっ……へへへ……お前、強いなぁ……」
「……あんたらも強かったぜ」
勝敗はついた。ヘクターは使い物にならなくなった剣を手放し、イーヴォは倒れる。同時にヘクターも膝をつく。彼もダメージが大きい。この勝負、彼にとってもギリギリだった。ここで彼が倒れていても全くおかしくなかった。だが彼は勝った。
「あぁ……楽しかったなぁ……」
「おう……楽しかったなぁ……」
「こんな楽しく死ねるなんてなぁ……」
彼らには悔いはなかった。義兄弟のゲオルクと同様に。彼らはこの結果に満足していた。
「手間をかけて悪いが……ゲオルクの兄者と俺たちの死体は焼いておいてくれ……俺たちゃアンデッドになんざなりたくねぇ……」
「……おう」
人類のみならず、魔族たちにとってもアンデッドは敵だ。彼らは恨みなど抱かずに死んでいくのだから、アンデッドになる確率は低いかもしれないが、ないとは言い切れない。そしてもしこの男たちがアンデッドになれば、近隣の者たちにとって
バートもヘクターの近くに来る。
「お前らもいつか冥界に来たら……兄者と俺たちと……また戦おうぜ……」
「俺は死んでからまで戦うのは御免だね」
「つれないことを言うなよ……まあ、お前らとなら一緒に酒を飲むのも楽しそうだなぁ……」
「あの世で盛大に宴会をしようぜ……」
「……ああ」
「強き者たちよ。ゲオルク、イーヴォ、カール、グンター。お前たちの名は、私が死ぬまで覚えていよう」
「俺も覚えているぜ」
「ありがとよ……」
ヘクターは、それにバートも、このオーガたちを憎む気にはなれなかった。それどころか、この男たちを好ましいと思っていた。平和な場所で出会っていたならば、種族を越えた友になってもおかしくはなかったと思えるほどに。
「あぁ……楽しかったなぁ……」
「楽しかったなぁ……」
「楽しかったなぁ……」
そうして、オーガの義兄弟たちは息絶えた。その顔に笑みをたたえたまま。
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